2021-12-01から1ヶ月間の記事一覧

新宿武蔵野館 『夜空に星のあるように』

この世で一番弱い人って、自分が弱いってわからない人だ。この映画の主人公ジョイ(キャロル・ホワイト)は、まさにその暗黒の極点のようなところに立っている。ハイティーンで泥棒のトム(ジョン・ビンドン)の子供を産み、夫は服役してその間パブのバーメ…

シアター1010 KERA CROSS VER.4『スラップスティックス』

1939年、ビリー・ハーロック(小西遼生)は映画配給会社のデニー(元木聖也)を説得して、忘れられたコメディ俳優ロスコー・アーバックル(金田哲)主演の無声映画を上映してもらおうとする。デニーに19年前の映画界を語るうち、世界は重層化し、過去が映画…

彩の国さいたま芸術劇場大ホール さいたまゴールド・シアター最終公演『水の駅』

イキテイル水。すべてが、暗く、幾何学的で、しんと静まり返っているのに、舞台の真ん中にある蛇口から流れ出る水だけが、細く光りながら身をよじって落ち、華奢な銀の鎖のようだ。立てる音は意外に低く、川や春の雪解け水をすぐ思い出させる。 あのー、最初…

Bunkamuraシアターコクーン COCOON PRODUCTION 2021『泥人魚』

ビゼー『真珠とり』の「耳に残るは君の歌声」がゆるやかに流れ、滑り板に腹ばいになった麦わら帽子の少女(やすみ=宮沢りえ)と少年(浦上螢一=磯村勇斗)が笑いながら干潟を行く冒頭から、頭上にブリキ板を担ぎ上げた、まだらボケの老詩人(風間杜夫)が…

三鷹市芸術文化センター 星のホール『星の王子さまとの出逢い ~音楽と絵と言葉のコンサート~』

「ごうかーく!」ステージを見るなり胸の中でにっこりする。紗幕にさらりといい感じのペン描きで、いびつな星たち、輪っかのついた星ひとつ、地球っぽい大きめの星などがシンプルに現れ、ピアノの高い音がきらんひかひかと小さく鳴る。紗幕の向こうに布で作…

シアタークリエ 『ガラスの動物園』

「映画にいく」。トム(岡田将生)は、母アマンダ(麻実れい)と姉ローラ(倉科カナ)に何度もそう告げて、牢獄のようなアパートを脱け出す。だが、(おや?)と思うのは、「映画」にそれほど重みがつけられていないからだ。或る時は軽く、ある時は吐き捨て…

紀伊國屋ホール 扉座創立40周年記念公演『ホテルカリフォルニア ―私戯曲 県立厚木高校物語―』

犬飼淳治、儲かっている!儲けている!中学までは「勉強ができる」ことが自分のキャラで、進学校に進んだ途端、「特徴のないふつうの高校生」になってしまった子の、無口でぎこちない苦痛の表現、佇まいが素晴らしい。すこし周りの空気が蒼ざめて温度が低い…

吉祥寺アップリンク 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

ワン・トゥ・スリー、暗闇・うすくらがり・ひかり、暗闇・うすくらがり・ひかりと、登場人物が現実には見えないもの、自分の影とダンスを踊る。 ローズ(キルスティン・ダンスト)は元夫と、フィル(ベネディクト・カンバーバッチ)は伝説的カウボーイブロン…