東京芸術劇場プレイハウス NODA・MAP第25回公演 『Q:A Night At The Kabuki』

『Q』はずいぶん変わったねー。「クイーン」、そして『オペラ座の一夜』がバンドの四人を一つの脳髄に納めているように、『Q』で繰り広げられる極彩色の源平合戦は、「それからの愁里愛」(松たか子)という女の頭の中から吹きこぼれてゆく物語だ。それは寝…

ヒューマントラストシネマ渋谷 『エルヴィス』

時間軸をいくつも並行させたり、きゅっと束ねたり、画面を割ったり、バズ・ラーマンはいくつもの書体で小説を書く「実験の人」みたいだ。畳み掛けて強調するのがとても上手。エルヴィス・プレスリー(オースティン・バトラー)を世界的なスターに押し上げた…

Bunkamuraル・シネマ 『魂のまなざし』

木桶の上で白い皿をこそぎ洗う音、大きなたらいの水を家の表に空ける音、モップで床を「磨る」音、敷物をうち振る音、髪をブラッシングする音、ベッドに入る衣擦れ、鉛筆を素早く動かす音、全てのものに音があって、それはこう囁いているみたいだ。(シャル…

下北沢駅前劇場 TRASHMASTERS vol.36『出鱈目』

中津留章仁、劇作家、49歳。えええー?芝居は手練れらしく4層ほどの絵巻物、又は4層の立体紙芝居のように作られ、進めば進むほど葛藤が深まるように設計されてはいる。とある地方都市、x市の市長広末孝雄(カゴシマジロー)は、沈みゆく市を活性化するため、…

新国立劇場オペラハウス 2021/2022シーズンオペラ クロード・アシル・ドビュッシー 『ペレアスとメリザンド』

このオペラを観る前に、予習としてペーター・シュタイン版(1992)を観た。あそこでは勝手に結婚したゴローに対し、アルケル王が、(我々は)運命の片側しか見えぬといっていて、それが芝居全体を通して一部分が常に覆われているという演出に適っていた。こ…

新国立劇場 小劇場 『M.バタフライ』

愛って幻影かもだなー。と思って劇場を後にする。芝居だって幻影だ。二人の人間をすれ違わせたまま置き去りにする。陽炎のように幻影がいくつもいくつも立ちあがり、『M.バタフライ』を形作ってゆく。1983年にフランスで発覚したスパイ事件に想を得て、「征…

本多劇場 オフィス三〇〇 『私の恋人beyond』

えー、脳?渡辺えりとのんのアフタートークを聞いて、吃驚するのであった。そういえば、そういうちいさい塊が、下手(しもて)の方で見えた気がするなー。「わかってほしい」というよりも、「わかられたくない」と自己を韜晦する、アングラの魔術のような手…

歌舞伎座 六月大歌舞伎 第三部 『ふるあめりかに袖はぬらさじ』

こころざし。志は船の汽笛となって、男を女から遠ざけ、女の思うのと違う方角へ男を連れ去る。芝居の中で、汽笛は長く短く、高く低く鳴り、男を引き剥がしてゆく。 横浜岩亀楼の花魁亀遊(河合雪之丞)は病みついて行燈部屋に寝かされている。見舞うのは廓芸…

世田谷パブリックシアター 『室温~夜の音楽~』

観に行くと大抵が上下二層に割られている河原雅彦演出の舞台の中で、今回のセットが一番緊(しま)っていていいよ。内、外、二重に混ざって見えるよう、ぴしっとまとまっている。或る家の洋間の壁の続きに崖の擁壁のコンクリートパネルが素知らぬ顔でつなが…

新橋演舞場 東京喜劇 熱海五郎一座新橋演舞場シリーズ第8弾『任侠サーカス キズナたちの挽歌』

前説の東貴博がほっそりしてハンサムなので、えっ、ふーんと驚くのだった。しかし話は低調で、大谷選手でなく小谷です、それはよくあるやつさ。東の説明する「花道を通ってもいいが台詞喋っちゃだめ、ただ通るだけ、『口パク』に音効つけます」っていう、新…

CINE QUINTO 『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』

シェイン・マガウアンはまだ60歳なのに、よれよれの折れそうにかよわい老人に見え、年来のポーグズファンの私はショックの余り大風に吹き飛ばされたような気持になる。シェイン、こんなになっちゃって。でもさ、この「吹き飛ばされたような感じ」は、シェイ…

Bunkamuraル・シネマ 『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』

上司の腹の、やっと塞がった赤紫の傷口に、白い軟膏を塗らされる。煙草会社のコピーライターであるヤーコプ・ファビアン(トム・シリング)は、そんなことまでやったのに、馘首を宣告される。この、理不尽なものを親切心から引き受ける行為いろいろが、何か…

PARCO劇場 パルコ・プロデュース2022『てなもんや三文オペラ』

マック(生田斗真)、とても大きな役だ。そして、とても重い役である。『三文オペラ』の「マック・ザ・ナイフ」でありながら、太平洋戦争の南方からの帰還兵で、鉄くず盗賊「アパッチ」を率いる向う見ずな男でなければならない。戦地から帰ってきた男たちは…

フジフィルムスクエア 『写真家・平間至の両A面アー写/エー写』

んー。ワカラナイよぅとしゃがみこみたい気持ち。会場の、入り口に向かって左手に、ミュージシャンの写真が並び、右手には写真館で撮られた、市井の人々の写真が隙間なく架かる。『写真家・平間至の両A面アー写(アーティストの写真)/エー写(営業写真館の…

Bunkamura シアターコクーン COCOON PRODUCTION 2022/NINAGAWA MEMORIAL『パンドラの鐘』

古代と未来の双方から掘り進めたトンネルが、薄い刃物一枚の厚さに近づき、ふと入れ替わる、スリリングな戯曲と、むきだしの舞台にいびつな白い柱を立てて、荒野のようで墓のようで、内側のようで外側のように見せる演出は、すごく面白い。安全。安心。でも…

土門拳記念館 特別展 木村伊兵衛生誕120年記念 『木村伊兵衛と土門拳 ―「瞬間」と「凝視」の好敵手―』

あのー、写真展の宣伝写真、三堀家義が撮ったこの写真面白いね、「『カメラ』誌の合同審査をしていたころの木村と土門」(1954)。 ちょっと背の低い、がっちりしたA字型のシルエットの土門拳は、何かに怒っていて、S字型にはんなり立つ木村伊兵衛に向かって…

渋谷TOHO 『トップガン マーヴェリック』

すんごい速さで道をぶっとばしていくバイクのマーヴェリック(トム・クルーズ)の姿を、カメラは追いかけない。並走もしない。待ち受けない。後姿を見ながらぎゅーんと引く。ふしぎー。まるでマーヴェリックがちぎれて飛んでゆくように見える。ここんとこ、…

東京建物Brillia HALL  2022年劇団☆新感線42周年興行・春公演 いのうえ歌舞伎『神州無頼街』

千秋楽まであと三回。だからなのかなんなのか、こんなに一幕と二幕で人柄の変わる芝居も珍しい。紗幕越しに身堂麗波(みどううるは=松雪泰子)の横顔が美しく光る(心の中では、ここ、松雪のアップだよ!)休憩前の一瞬を挟んで、芝居は竜がのけぞるように…

Bunkamuraル・シネマ 『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』

「この少年の(略)図太さに、私は感心してしまった。」(『サリンジャーと過ごした日々』105頁)。んー。私だって感心してしまったよー。よく出来た、才気ある原作(この小説も、サリンジャー出すとこがちょっと図太い)を、クリノリンスカートからクジラひ…

ヒューマントラストシネマ有楽町 『勝手にしやがれ』

映画には性別があるのではとうっすら思う時もあったけど、この、ゴダールの『勝手にしやがれ』という映画ほど、等身大の「男」を感じさせるものはない。「60年前の巷の男」―カメラ―監督―「映画それ自体」と化しているのだ。これ、まるでゴダールの私映画のよ…

TOHOシネマズ シャンテ 『ザ・スパークス・ブラザーズ』

スパークス、何十年も、たいへんだったんだね。って言っちゃうと、何かが剰(あま)る。自分の芸術を追及した。って言ってもやっぱり何か過剰。ロンとラッセルは、すばしこいイルカの背中に乗って、海中と空中をかわりばんこに突き抜けてくみたいなのだ。ど…

TOHOシネマズ シャンテ 『ベルファスト』

算数で頑張った9歳のバディ(ジュード・ヒル)の席次は「3番」、そこんとこ観ていて、私ごめんけどすこーし、笑った。ケネス・ブラナーて、3番ぽいもん。1番の孤独、2番の屈折と離れて、「頑張った子」の3番はクラスの「普通の子たち」と「秀才たち」とのジ…

TOHOシネマズ シャンテ 『ガンパウダー・ミルクシェイク』

息切れした。自分にとって納得いく(怖くない)ヴァイオレンスは『トゥルー・ロマンス』(1993)の、痛めつけられたヒロインの反撃だけである。ユマ・サーマンの際限なく現れる黒服仮面の敵も、結局これ「一人」なのかもしれんと思わされる。けどなー。『ガ…

ユーロスペース 『アネット』

「内」と「外」を、壊乱しながら『アネット』は始まる。カラックスの頭脳からうまれた映画は、「So,may we start?」という彼の声で目を覚まし、狭いスタジオで1フレーズ分過ごした後、歌い続けるスパークス(ロン・メイル、ラッセル・メイル)に先導されて…

Bunkamuraシアターコクーン COCOON PRODUCTION 2022 『広島ジャンゴ2022』

この作品みると、ジェーン・カンピオンの映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が、どんだけ西部劇にケンカ売ってたか、そしてカンピオンが西部劇からどんなに疎外された存在を代表しているかがわかるわけだが、そこ行くと蓬莱竜太、中途半端だよー。マカロニ・…

日本橋TOHO 『スモール・アックス』第1話最速無料試写会

1968年ロンドン、ノッティングヒル、一人の(黒人の)男が、煙草の煙とさいころの音、レゲエ音楽でけぶっている地下の店を出て、路を斜めに横切り、挨拶したり不良を追い払ったりしながら、真新しい紫と黄緑の配色のレストランに入ってゆく。男の名前はフラ…

東京国際フォーラム ホールC ミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』

「地上のマリア」の出現から物語は始まる。ちいさなハミング。大きな格子柄のコートを着た女(ミセス・ジョンストン=堀内敬子)がしっかりと立ち、歌う。足元はくるぶし近くまで甲皮のある昔風のがっしりした中ヒールだ。上に向けた視線は挑戦的だが、すこ…

本多劇場 悪い芝居vol.28 『愛しのボカン』

「声、でてます」。確かに、誰も彼も、声出ている。客を瞞着するような、嘘のシーンも消えた。でも。今回開場して客席に入ると、青年団みたいに舞台に役者が板付きだ。この状況がつらい。実につらかった。男の子に注目されているのがわかっているのに、知ら…

劇団俳優座五階稽古場 劇団俳優座LABO公演38『京時雨濡れ羽双鳥』『花子』

これ、どちらも、女の価値、経済の話かな。女の人はいつでも値段をつけられてきた。田中千禾夫がどんだけ女に詳しくったって、「値段をつける側」だったことは動かせない。女は雌鶏のように卵を産むよう励まされる。子を産む女は価値がある。労働力として女…

こくみん共済coopホール 劇団昴公演『一枚のハガキ』

ふーん、やるね劇団昴、まず、個々の役柄の設計図がぴしっとしてて緩みがなく、それを実際に舞台に立ち上げる時も折り目が鋭くて、すんごいよく飛ぶ工学ハカセの紙飛行機みたいだ。人を得て古川健の脚色もひときわ輝いている。 冒頭、下士官の町田大征は戦時…