五島美術館 『春の優品展 古今和歌集を愛でる』

手習いしたことない。硯洗うのだいきらい。そんな人が、上野毛駅徒歩5分、界隈の家々がゆったり建つ、五島美術館に来ました。ウグイスが鳴いている。しずか。今日の美術館の特集は、『春の優品展 古今和歌集を愛でる』だよ。書だねぇ。 まずね、作品が傷ま…

アップリンク吉祥寺 『THE FIRST SLAM DUNK』

「スラム」「ダンク」ってなんですか?…そこからです。バスケットのわっかにジャンプしてボールを叩き込むことを言うんですね。ダンクシュート!って呼ばれてるやつですね。この映画の中には、主人公リョータ(声:仲村宗吾)たちの湘北高校と、秋田の山王工…

アップリンク吉祥寺 『コンペティション』

おっそろしく自分「に」ピントの合った人たちが、自分「の」ピントを合わせるべく、戦う映画である。大金持ちの老人スアレス(ホセ・ルイス・ゴメス)は、自分の名を後世に残すため、映画制作を思い立つ。いま旬の映画監督ローラ(ペネロペ・クルス)に監督…

紀伊國屋サザンシアター オールナイトニッポン55周年記念公演 『たぶんこれ銀河鉄道の夜 ~The Night of the Milky Way Train(right?)~』

上田誠によって、宮沢賢治の文章がうたわれる。きれいに、いい感じに、またはラップをうまく使い、ちっともいやではない。しかし、家に帰って手を洗いながら、「赤い目玉のさそり~」と、宮沢賢治作詞作曲の星めぐりの歌を歌うと、今日見てきた芝居がとんじ…

東急シアターオーブ ミュージカル『マチルダ』

世の中にうすーく広がる、「こどもってやっかい」という空気。主人公マチルダ(三上野乃花)は、その、こどもを覆う気配(世界中の子供が、実はそれに気が付いている)と戦う。 マチルダを「ぼうず」と呼び、厄介者の最低な奴と扱う父ミスター・ワームウッド…

東京芸術劇場シアターイースト 『カスパー』

「統一と正義と自由」「我らは皆で兄弟のごとく」、というようなフレーズを持つドイツの歌——ドイツ国歌が、傷だらけのSP盤から流れてくる。動けない病気の子のような、清らかな視線を持つカスパー(寛一郎)は、カスパーたち、あるいは黒衣たち(王下貴司、…

PARCO劇場 PARCO劇場50th Anniversary シリーズ PARCO PRODUCE 2023  ミュージカル『おとこたち』

ジャンル負けしてる。ミュージカルの海は広く、深いねえ。熱い紅茶に角砂糖を入れると、あっという間にほろほろ崩れるように、2014年に観たストレートプレイ『おとこたち』のいいところが、さぁっと溶けてしまう。うーん、前半、鈴木(吉原光夫)の世界への…

シアター風姿花伝 パラドックス定数 第48項 『四兄弟』

四兄弟は、暴虐の父をころすことで、隷属の苦しい状態から抜け出る。最初は暴力、その暴力を否定することはできない。ソビエト。共産主義。レーニン。あっそうかふーんと発見があり、そこが目からうろこ。レーニンやスターリンやフルシチョフは暴力から生ま…

東京建物Brillia HALL 2023年劇団☆新感線43周年興行・春公演 Shinkansen faces Shakespear 『ミナト町純情オセロ 月がとっても慕情篇』

パラレルな感じ?シェークスピアと映画みたいな50年代と、こちらから眺める現代とが、悲劇の起こる「島」の周りを三重に、見えない線でぐるぐる巻きにする、沙鷗組の亡くなった組長の妻(アイ子=高田聖子)が、イアゴーと同じくらい非道い奸計をめぐらし、オ…

明治座 明治座創業150周年記念前月祭 『大逆転!大江戸桜誉賑 だいぎゃくてん!おおえどかーにばる』

松平健の、体幹はしっかりしてて安定してる。はー、腰がキマッテルってこれね。と思う。どんな俳優でも、たとえ鶴田浩二でも、腰のキマらないひとは映画で「いい者」に映らない。けどさー、今日松平健は、目測を誤って、カラミに刀を当ててしまった。(あっ…

渋谷TOHO 『Winny』

俳優に水洩れがない。皆集中し、きっちりこなす。画面手前に映りこむ、脇役の少壮弁護士浜崎(和田正人)の、パソコン画面を畳む手つきすら充実している。すごいなー。ポッキーを食べるプログラム開発者の主人公金子勇(東出昌大)、法律用語を台詞の地模様…

KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉 KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『蜘蛛巣城』

蜘蛛の巣にかかった男や女。黒澤明がなぜ自分のマクベスにその名をつけたかよくわかった。夢、野望、功名、どんな動機でも、蜘蛛の巣に魅了され、虜になったものは逃げられない。昏い運命に捕食されるのを待つ。そしてまた、人々を喰らう運命は、脆く儚く、…

TOHOシネマズ渋谷 『フェイブルマンズ』

サム(ガブリエル・ラベル)の母ミッツィ・フェイブルマン(ミシェル・ウィリアムズ)が笑いながら、戯れに葉をつけた若木につかまり、木は左右に大きく反って撓む。あれ、サム――スティーブン・スピルバーグだと思うのだ。折れそうな程傷められる少年。後半…

TOHOシネマズ渋谷 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

エヴリン・ワン(ミシェル・ヨー)は夫のウェイランド(キー・ホイ・クァン)と共におんぼろなコインランドリーを経営している。税金に監査が入り、彼女は自分の申告を見直さなければならない。経費には「カラオケセット」がのん気に計上されている。(交際…

ザ・スズナリ NYLON 100℃ 48th Session 『Don't Freak Out』

家父長制を哄笑するおんなたち。 『砂の女』のあの男は、砂の中に閉じ込められる一方、居心地の良い巣穴で、「女」に世話され、一人で過ごす自由を得た。彼は「お世話」を疑わない。『Don’t Freak Out』の父天房征太郎(みのすけ)は、女中部屋から地下に降…

キノシネマ天神 『銀平町シネマブルース』

映画1000本みてるボーイズクラブの映画。って思っちゃったよ。主人公の猛(小出恵介)は無職で、ホームレスの佐藤(宇野祥平)と大変近い境涯の人として登場する。底辺への畏怖とシンパシーを、「映画を見ること」が支えてくれる。猛はカルトで知られる映画…

博多座 二月花形歌舞伎 『夢見る力』 特別舞踊公演

花道がシャリリと開いて、猿之助が紋付き袴で舞台へ急ぐ。右手でマイクを持ち、左手を左の腰辺りに添えて、威儀を正してご挨拶する。コロナで一ヶ月の博多座興行が14日になったこと(『新・三国志』ね)、1000回の稽古より一回の本番の方が役者を育てること…

博多座 二月花形歌舞伎 『三代猿之助四十八撰の内 新・三国志 関羽篇』

幕一面に漢文の白文がある。読み下せはしないけど、三国志の関羽の容貌に触れ黄巾の乱を語り、劉備玄徳、関羽と張飛が交わした桃園での、生死を共にしようという誓いのことまでが書かれている。『三国志』かぁ。知り合いは熱烈なファンだけど、私は全然読ん…

Bunkamura DISCOVER WORLD THEATRE vol.13 『アンナ・カレーニナ』

「あの」、『アンナ・カレーニナ』の上演台本化は大変だっただろうと思うのだ。じっさいよくできてる。すべてが入れ子のように仕組まれて、アンナ(宮沢りえ)――亡霊の中に生が、生の中に愛が、愛の中に嫉妬が、そして憎悪が、執着や苦しみや死や、喜びや性…

PARCO劇場 PARCO劇場開場50周年記念シリーズ 『笑の大学』

んんんん、全国巡演版(98年)を観てます。あの時も、頭の上に大きく「?」出るような作品でした。受けてたし、テンポよく、軽快で、息があってたけど、時代と「ずれていた」。まだ民主主義が大事にされ、肝心なことがこそこそ決まったりしないころだったの…

あうるすぽっと 木ノ下歌舞伎 『桜姫東文章』

ケータイの画面の中には、深い深い海、乾いた水が静まっている。そこでは四六時中見えない雨が上から下に降っていて、その重力の雨のせいで誰もが合羽を着なければならない。 劇場は水のないプールであり、繁栄した後に干乾びてゆく都市を表わしている。ここ…

新宿シアタートップス TAAC 『GOOD BOYS』

『にんじん』(ルナール)裏バージョン、とアゴタ・クリストフの作品を読んでちょっと思ったけど、タカイアキフミのこの作品は、『悪童日記』よりも『にんじん』に似てないか?「戦争」や「運ばれてゆく人」を描くことで、世界が外へ外へと吹きこぼれていく『…

THEATRE1010 『風が強く吹いている』

加速。「(略)…その時、自分の目に周囲はどう映り、自分の肉体はどれだけ血液を沸騰させるのか。なんとしても未知の世界を体感したかった。」 「走(かける)は自分が、相手との間合いを詰めようとしていることを感じていた。海中に超音波を投げかけて、そ…

新宿ピカデリー 『とべない風船』

三浦透子の撮られっぷりが凄い。古代文明の女神像のような顔で映っている。隠してない。守ってない。三浦透子自身であることを貫いていて、「三浦透子」という観音開きの箪笥の中に、「女の子」「俳優」が入っている。その逆じゃないのだ。どうやって至った…

坂本龍一 『12』

プールに入ると考え事をしちゃうから、頭の中で『ラストエンペラー』のサウンドトラックを、最初から最後まで流していた。「水の下にも都がある」感じしたなあ。すくわれた。その程度に、ファンです。「Energy Flow」も草臥れた時聴くんだけど、曲が高まって…

Bunkamuraシアターコクーン 彩の国シェイクスピア・シリーズ 『ジョン王』

通路沿いの席の足元に、ゴールデン・レトリーバーの盲導犬が静かに丸くなっている。すごく運のいい人と関係者が座る真ん中の通路からすぐの列に、タブレットが設えられ、聴こえにくい人のために字幕を提供する。だれがおもいついたのー、いいやんこれー、親…

東京芸術劇場プレイハウス 『宝飾時計』

人の躰の中には、行きつ戻りつする時間、「息づく」時計が棲んでいる。灰色に停止したり、手にとれるように蘇ったり、こつこつ進んだり、人間を振りまわし、人間に振り回されながら、時計は生きる。その上、この『宝飾時計』という芝居の中で演じられる「宝…

東急シアターオーブ 『ニューイヤー・ミュージカル・コンサート 2023』

今日の主役の四人(ベン・フォスター、アダム・ジェイコブス、レイチェル・タッカー、真彩希帆)が歌う、まるっきり序盤の、 「The world is a stage, The stage is a world of entertainment!」 のとこで、はやばやと泣いている。うんうんそうだよねー。そ…

下北沢 ザ・スズナリ 劇団東京乾電池公演『十二人の怒れる男』

あれ宮口精二(太いズボンに目に痛いような白いシャツの50年代)出ないの?的な、全体がセピア――白黒の映画の中へ入ってゆく感じ――の作り。そして、子供であった時より父になってからの人生の方が鮮明な人間の演出だ。冒頭、少年(19歳となってるが――高田ワ…

Bunkamuraル・シネマ 『RRR』

うぉー。頭の中の「プラッシーの戦い」とか「ムガール帝国」とか「セポイの反乱」とかのお勉強が、一撃であっさり四方へぶっ飛んでいく。走る!飛ぶ!苦痛!友情!最初、映画館で予告編を観た時、(どうなのかなあこれ)と思ったのだった。予告の中の英国兵…