ギャラリーエークワッド「トーヴェ・ヤンソン夏の家――ムーミン物語とクルーヴ島の暮らし」

1940年代半ばのトーヴェ・ヤンソン。つまり30歳くらい。抽象的な裸婦を描いた油絵の画架を左手に、古ぼけただぶだぶの上着を着て立っている。胸に大きな裂け目、その下に特大のポケットがついていて、これも破れ目がある。袖口から、ストライプのジャケットがのぞく。胸の前で軽く指先を触れ合わせているので、持ち上げた腕の下に穴が開いているのが目立つ。きちんと継ぎのあたった裾、裏に毛のついた皮の部屋履き。髪はかきあげられているが、顔を見た途端、ぼろのうわっぱりのことは忘れてしまう。不敵な顔つきだ。ムーミンを書いた人は、こんな顔をした女の人だったのだ。

 トーヴェ・ヤンソンは、ヘルシンキから車で二時間、さらにボートで45分かかるクルーヴ島に夏の家を建てて住んだ。夏の家。すてきな響き。だが、軽井沢あたりの瀟洒で快適な別荘を想像してはいけない。電気なし、水道なし、ガスなし、岩場ばかりで草木なしの小さな島に、しがみつくように立っている一部屋の小屋。ここでトーヴェは夏を過ごし、執筆した。この展覧会には夏の家と島の模型がある。島がこわいくらい小さい。嵐のとき、襲いかかる波がどれほど荒れ、そしてトーヴェがどんなにタフなひとであったか、この模型からも感じ取れる。

クルーヴ島の夏の家の、実物大の内部の様子も見ることができる。小さいが、狭さは感じない。こじんまりと、居心地よさそうに整っている。三方に一つずつ、窓がある。窓の横にデスクがしつらえられていて、その上には、大きなろうそくが、六本も並んでいる。角には小さなストーブとコンロ、その前にテーブルが置かれ、椅子が二つある。これで嵐さえ来なければ楽しい夏が過ごせる。いや、嵐が来るからこそ、彼女はここに住んでいたのかもしれないが。

 

 

トーヴェ・ヤンソン夏の家――ムーミン物語とクルーヴ島の暮らし

7月12日(金)~9月30日(月)10時~18時(最終日17時)日祝休館 夏期休館8月10日(土)~8月18日(月)

 入場無料

東陽町 ギャラリー エークワッド(東京都江東区新砂1-1-1  

 竹中工務店東京本店1階)