文学座5・6月アトリエの会 『信じる機械』

 落下する。とめどなく。青空に向かって。

 楕円形の舞台の奥に、書類と本の山。この「塚」がなんだかまがまがしい。911のビルディングや、戦場の瓦礫を思わせる。舞台面にはたくさんのチラシ(英字の広告と記事)が貼りこまれていて、塚から吹きちぎられてきたように見える。9月11日、あの日ツインタワーから降り続けた書類や、亡くなった人を思い出し、黒い舞台が実は底なしの青空で、貼りついた紙ともども落下していくような奇妙な気分にとらわれた。こわい。

 ニューヨークで同棲しているカップル、トム(亀田佳明)とソフィ(松岡依都美)は岐路に立っている。小説家になる夢を捨て、広告会社で働くトム。トムは薬害を抱える大手製薬会社と契約することに「成功」したところだ。しかし、ジャーナリストを目指すソフィにはそれが許せない。その仕事をやめるか、自分といるかの二者択一を迫るソフィ。しかしトムには選択など思いもよらない。この芝居を通して、トムには空っぽな感じが付きまとう。まるでからの段ボール箱みたいなのだ。ソフィの父エドワード(川辺久造)が手助けを必要とする場面でも、彼は逃げ出す。また、エドワードの、世界は物語を必要としているという説得力ある言葉にも、応える様子がない。だが、唯一ソフィといたいという気持ちは切実だ。強い信念の持ち主であり、そうやすやすと男に「おまえ」呼ばわりされそうにないソフィにとっても、トムを愛しているというのが泣きどころである。ソフィとトムの理屈抜きの関係が、少し弱く感じる。

 911を経ても世界は市場経済や混乱を抱えたまま落下し続ける。けれども、ウガンダ出身のアガサ(大和田梓)を通してソフィや過去と向き合い、微妙に変化したトムが、自分が空っぽであることを認めると、その落下は、ほんの少し止まったような気がするのだ。