人見記念講堂 エルヴィス・コステロ『DETOUR』

 エルヴィス・コステロが選んだ500枚のアルバムのリストを、スウェーデン人の人にもらい、大切にしていた。買ったCDには薄く鉛筆で丸印つけたりして。まだ持ってるよ。

 今日はコステロの『DETOUR』 コンサート。DETOURとは、迂回路、回り道のことだって。30分前、会場に入ると、「オープニングアクトが始まります。」と係の人が叫んでいる。ステージに巨大な、四角いテレビ。手で回すチャンネルがついていて、その下にいくつかの調整つまみがある、風流な奴。左側にDETOURと矢印があり、右側にはON AIRの表示がある。その前に5本程の様々なギター、テレビの右手にこれも風流な背の高い椅子、イスの背に白いつばつき帽がかかっている。左手にはグランドピアノ。ピアノの横と、椅子のそばに古風なメガホンがある。全体を見ると、なんかポップな、笑いだしそうなセットで、わくわくする。席に着くときテレビの画面を見ると、ちょうどThe Other Side Of Summer のpvを流していた。パームツリーの生えた海岸をオープンカーが走る。強烈な歌詞、すてきなメロディ、好きだこの曲。

 テレビに大きなLarkin Poe の文字、エドガー・アラン・ポーの遠い親戚らしいね。カールした髪のレベッカと姉さんのミーガンだ。ミーガンはドブロ(ギターを水平に寝かせて弾くあれ)を抱えている。レベッカはギター。足で打つドラムで拍子を取り始め、うたう。カーンと響く、おなかの底から出るつよい地声だ。なんか、「おそれいります」「おいくらですか」としおしおしゃべる日常の自分を反省するくらい、樽から出したばかりの生(き)の声だった。リトルシスターズオブオールマンブラザーズバンド かあ。とウィキペディアを見て感心するのである。

 すっとステージが暗くなり、「誰か」がテレビジョンの前にスタンバイする。歓声。そうだよ、コステロだ。ギター一本かかえただけで一人で歌い始める。どこかからエレキの音がかぶってくると、ギターから両手を離して「じぶんじゃないよ」と身振りをしてみせる。激しく鳴るエレキギターの拍を取って、またギターを弾き始めるところがすごくかっこいい。今までいろんなことがあったよというようなことを話しはじめる。アラン・トゥーサンのこと。(会ったのは83年だったっけなあ、84年かな。)テレビに写真が出る。Ascension Day。昔のプロフェッサー・ロングヘアの曲をアラン・トゥーサン短調に直し、それにコステロが歌詞をつけた歌だ。昔来日した時銀座でライブした。(テレビジョンにエルビス・コステロ今来日演奏中とスプレーペンキで急いで書いた横断幕の上で演奏するコステロ、それから8Fギフトセンターという垂れ幕の見えるデパートの前にいる若いコステロが映る)只で音源を配ろうとして通る人に差し出したが、よけられた。

 ギターからピアノの前に移っての二曲目、Deep Dark Truthful Mirror、のど全開。おじさんだけど、若い。テレビに若いころや、子どものころの写真が写っていて、マトリョーシカのようにどんどん中身が見えてくるからだろうか。

 I Want Youをギターで弾きながら歌っているとき、ステージ前面で、突如ギターのジャックをぶちぶちっと抜き、通路を通って後方まで行ってしまった。観客は皆ちょっと、いやかなり、びっくりしていた。よろこんだけど。

 テレビ画面に50年代風の男性歌手が映る。おとうさんだって。次の写真ではおとうさんは60年代風のくだけたスタイルの歌手になっていた。このお父さんの所に来るレコードのおかげで、コステロは音楽にものすごく詳しくなったと、ネットで見ました。

 ストライプのジャケットを着たコステロが、Larkin Poeに挟まれて、一緒に歌う。コステロの声って、なんか揺れていて、揺れているけど、最後は碁盤に石を静かに置くみたいにぴしっと決まる。ってなことを考えているうちに、巨大テレビのスクリーンが開いて、中でコステロが、Alison とPump It Upを歌ってくれる。すてきー。しゃれてるー。

 最後は(What’s So Funny ‘Bout )Peace,Love And Understanding?。スクリーンにはDon’t Joinの文字、私たちが70年間人殺しをしなかったことを言っているんだね。