「わかりました」
右手で胸を静かになでおろす。本当にわかった感じがする。わかった内容が胸に収まって、一瞬きらっとするみたいだ。西川浩幸の手話には説得力があった。
西川浩幸は2011年左前頭葉皮質梗塞で倒れ、「連続して喋ろうとすると違う音が出る」「予想がつかない音が出る」というきつい状況から復帰して今がある。
「知らないお客さんにとっては、滑舌の悪い人と感じられるようで、たまにアンケートにそう書いてあるのを見かけます。確かに、滑舌はちょっと悪いです。しかし、それをはるかに凌駕する明るさ、楽しさ、親しみやすさが西川浩幸にはあると思います。僕は西川浩幸の前向きな姿勢に、勇気をもらっています」(成井豊ブログ)
そういうことか。英語だってクイーンズイングリッシュだけでなくシングリッシュ(シンガポール英語)だってヒングリッシュ(インド英語)だってある。キャラメルボックスと、そのファンが、そういう姿勢なら、いいと思う。西川浩幸って、たぶん「キャラメルボックス」そのもの、楽しくて、優しくて、明るい、「キャラメルの魂」なのだ。もう少し発語しやすいセリフを割り当てるべきだと思うけどさ。
問題は、ほかの俳優たちの滑舌だ。「ユースチス」とはっきり言えている場面はほとんどなかったし、ユーリ(原田樹里)の「し」の発音はくぐもってあやしい。稽古できちんと指摘してほしい。
なつかしい30年前のヒット曲と同時にふわっと照明があたる。手話をつかったすてきなオープニングだ。終幕まで2時間、ノンストップで俳優たちは力走する。どのシーンも、飽きさせない。幸吉(一色洋平)の職業が1時間20分たたないとわからないのはびっくりだが、推理サスペンスとして成立している。