月影番外地その5 『どどめ雪』

 縁の下の濃い闇、押入れの濃い闇、透かし見ればそこには、打ち棄てられたピンクの赤ちゃんだるまや、「朝鮮戦争緊急配備」と書かれた古い新聞紙が隠れている。

鶴子(峯村リエ)、幸子(高田聖子)、雪子(内田慈)、妙子(藤田記子)の4姉妹は、古びた日本家屋に一緒に住んでいるのだが、それぞれが自分の存在に「うしろめたさ」をもち、ここで自分自身から「隠れている」ように見える。その激しい緊張感。幸子の夫貞之助(利重剛)はショッピングモールの警備責任者だったが、家に石を投げられ、仕事をやめざるを得ない。こうした家族の不断の緊張に、妙子の過去が大きくかかわっていることがわかってくる。

 全編がアフォリズムのような気の利いたやり取りに満ちていて、一本の芝居が、こんなに機知に富んでいることに少し驚く。作者の造語を中盤大声で叫ぶあたりで、わらった。家族全員で物も言わずに家庭メニューを食べているシーンが素晴らしい。慣れた手つき。確信ありげに手から手へ移動するお玉。音。匂い。誰もおいしいなんて思っちゃいないといわれて、雪子の恋人和夫(田村健太郎)が「誰も?」と驚くと、幸子をはじめ家族が皆複雑な、得も言われぬ表情を浮かべるのである。田村健太郎の芝居に、好感をもった。

 しかし、明らかになる妙子の秘密がリアリティをもちづらい記号化したもので、「うしろめたさ」と「重さ」を感じにくく、構図がうまく働かない。雪子が妙子に怒りをぶつけるシーンも、紋切型なので芝居に工夫が必要だ。

 セリフとセリフの隙間に、俳優たちは微妙な表情になる。そこがとても面白く、味わい深い。

 そして微妙な終幕。思いがずれていく微妙さ、それを役者が精細に演じて、軽やかに成立させている。