さいたまスーパーアリーナ 『一万人のゴールド・シアター2016』 

 ながいながい食卓(2列に、8つ)。食卓の上には、りんご、のような赤い丸いものが見える。中央に並んだ食卓を挟んで、片側の隅には簡素な白いベッドが5台、5台、4台と置かれ、反対側には黄色、赤、緑、青、ピンクの大きなパネル状のものが床に敷かれている。リハビリ用の手すりもある。すべてが小さく、豆の様にしか見えない。

 スタジアムの向かい側の観客席に、出演者が座っている。1600人。白い服の上にとりどりの明るい派手なものを着ている組、真っ白の組(少し赤)、黒の組に分かれている。遠目にも、あんまり動かない。こちんとしている。緊張しているんだ。と、出演者の人々が突然、かわいく思えてくるのだった。

 5分前、一人の男が、ゆっくり食卓の真ん中に座る。それから、観客席の人々が、スタジアムに出てくる。散らばっていくように指示が出てるんだなー。ちゃんと、演劇的。散らばり方がきれい。輪になって、ビーチボールでバレーをする人たち、紙芝居を観る人たち、パネルと見えたのは実は大きなカラーの模造紙で、それを畳んでカブトやツルやヒコーキが出来上がる。青い巨大なヒコーキをかざし持つ8人の人が、スタジアムを練り歩く。手拍子が聞こえ、笑い声がする。車椅子が30台以上、押されて登場する。リハビリの手すりを伝う人たち。こちらでは真剣な「だるまさんころんだ」がはじまった。これらはブリューゲルの「子供の遊戯」の老人版にも見え、演出にヒエロニムス・ボスを使った蜷川幸雄へのノゾエ版オマージュ、アンサーソングにも見える。がんばったね。もうここで涙。おもむろにスポットが当たって、数人の出演者が夢を語り始める。夫が認知症になりました。今日はディサービスで昼夜いないからゆっくり帰れます。(小さな微笑み)私の夢は夫を箱根の温泉に連れてゆくことです。シンプルで飾らない。こうした現実的な夢の中に、ロミオとジュリエットが忍び込む。全員を巻き込んで、芝居が始まっているのだ。白い服と黒い服が、会場にあふれ、白と黒に分かれる。「わたしはこどもにさきだたれました。」

 出演者がロミオのセリフを喋り、ジュリエットの恋心を語るとき、誰でもが一度は若く、ロミオであり、ジュリエットであり、又はロミオではなかったロミオで、ジュリエットになれなかったジュリエットなのだと思うのだった。それぞれの声に応じて、それにあったセリフが割り振られているような気がした。美しいビーズの光る着物を着たこまどり姉妹が、恋を唄う。物語は愛に収れんしていく。アマチュアだけど、もたもたする人などいないし、動きもピリッとしている。1600人が作り出す白と黒の渦。愛の中の死に向けて、全員の緊張が高まる。ボレロ

 好きになったら一にも二にも押して通すが勝負だよ。そのような恋と悲劇だったロミオとジュリエット、この違和感とフィット感が芝居を一段格上げしていたと思う。出演者の習練もたいへんだっただろうが、きっかけ等、本番のスムーズな進行も素晴らしかった。