東京芸術劇場 シアターイースト 『不信 ―彼女が嘘をつく理由』

 マンションの隣の部屋の夫(栗原英雄)はフィックス、その妻(戸田恵子)はドリー、高校教師(段田安則)は手持ち、その妻の編集記者(優香)はクレーン。なんだか登場人物の視点がみんなカメラで説明できそうだ。四人四様の言い分で芝居は進行するが、どのカメラも万能じゃない。必ず死角を持っている。

 劇場に入ると、舞台面にフラットに当たるブルーの四角い照明を、これもまた四角い、小さめの黒い影が隠している。ブルーは、縁どりにしか見えない。舞台中央に黒いスツールが6つ、四角の影を丸く切り抜いて、そこにだけブルーの光が当たる。これらのブルーとは異なるブルーが、向かって右の舞台端にある大きな棚を照らす。2つのブルーには微妙なちがいがあり、舞台面の方は緑がかっている。棚には写真立て、まるい置時計、フックにかけられたローブが見える。向かって左の棚には花瓶、ステレオなど。一言でいうと、この棚はインテリアショップの素敵なディスプレーである。

 「雨上がりの動物園」。こんなに素敵なのに、そのようなにおいのする隣の家へ、夫(段田)と妻(優香)は引っ越しのあいさつに行く。夫は耐えられず、景色を見るように装って窓を開けるが、妻はまるで感じない風に平穏に振る舞う。ここんとこにもうすべてがあるような。この匂いの沼(と私は感じた)に踏み込んでゆく二人。妻が踏み込みすぎて、優香のかわいさをもってしても、うるさく感じられそうになる。踏み込んでしまうトリガーを、もう少し書き込んでもよかった。

 早く起きた朝、昼下がり、夕暮れ、ふとケーブルテレビで観て、「こんなの観た。」と友人に喋りたくなるような、そんな映画に感触が似る。