シス・カンパニー公演 『令嬢ジュリー』

 子供の本の作者、リンドグレーンスウェーデン、1907-2002)が、日本語訳されているたくさんの本の中で、たった一回、性的な関係に言及したことがあって、それは農家の主人と女中に関するものだった。その「おはなし」には作者のかすかな怒りが透けて見え、女中をいいようにする主人に、ほんとに腹立ってたんだなと感じる。と、関連するようなしないような話から始めるのは、この『令嬢ジュリー』が、よく解らないせいかもしれない。

 お屋敷のお嬢様ジュリー(小野ゆり子)は婚約を破棄したばかりだ。父の伯爵は留守、今日は農場の人々が羽目を外す夏至の夜である。ジュリーは下男のジャン(城田優)をダンスに誘い、しつこく自分の相手をさせる。

 祭りが熱狂的に盛り上がる一方で、ジュリーとジャンは一線を越える。関係性の変化、「お嬢様」でいられなくなったジュリーは拠り所をなくし、かごを失ったカナリアのように弱い、傷つきやすいものへと変わっていく。ジュリーは身分の枠組み、男女の枠組みに反発することで自分を成立させていたのだ。小野ゆり子の露わになった額には、まだジュリーが子供であることがよく表れている。彼女はどんどん幼くなる。

 気が付いたら裸足になっているという演出がとてもよかった。ジュリーの背景が複雑であるということを示すために、序盤のセリフに工夫が欲しい。権高であったり親しげであったり、冷たかったり熱心だったり、セリフごとに全然変えてもいいのでは。

 城田優のジャンは、登場時に肩が使用人らしく(?)こわばっている。体がほぐれていくにしたがってジュリーに自由に口をきいているように見えた。ジャンの恋人クリスティンの伊勢佳世好演。