六月花形新派公演 『黒蜥蜴』  2017

 橄欖緑といいたいくすんだ緑に、時代のついた金色の丸に越のマーク。真上を見上げると四角いマス目の飛び飛びにステンドグラスがあり、天井の梁にはいちいちぜんぶ違う金色の交った装飾がある。この劇場は『黒蜥蜴』にぴったりだ。新派の人が、『黒蜥蜴』やろって思う、その気持ちが好きだね。

 帝都、東京。その淪落の巷で繰り広げられる、悪党たちの仮面舞踏会に、女賊黒蜥蜴(河合雪之丞)も現れる。あたりを払う美しさ。黒蜥蜴は、宝石商岩瀬(田口守)の持つ宝石「クレオパトラの涙」を狙い、岩瀬令嬢早苗(春本由香)を誘拐しようとする。それを阻むのは名探偵明智小五郎喜多村緑郎)だ。二人は知力、胆力を尽くして争ううち、ねじれた、奇妙な恋愛に行きつくのだった。

 「剥製人間」「人間椅子」「死体の替え玉」、江戸川乱歩らしい猟奇的な題材だが、黒蜥蜴の着地点が、やっぱりねじれた、奇妙で人間的なものなので、終わってみると爽やかだ。最後の黒蜥蜴のセリフ、最後の明智小五郎のセリフなど、胸がじんとしてしまう。

 登場した明智は、大きな机を前にして座っているのだが、よく似合う白いシャツ、笑うと見える白い歯、ふと横を見遣るときの目の美しさなど、いちいち拍手が起きても不思議ではない。拍手が起きないのは、(まだ?)芝居全体が端正すぎるからだ。折り紙の鶴を、丁寧に折って、嘴などきっかり尖っているが、出来上がりが遅いって感じなのだ。冒頭の仮面のシーンなど、丹念過ぎてグルーヴが足りない。勢いがあれば、明智が席を外した時、緑川夫人(河合雪之丞)がカードを静かに切っている緊張なども際立つと思う。道化師のジャック(市村新吾)とてもいいけど、もっと派手でもいい。音楽が少し弱い。後半のタテ、かっこよかった。