FUKAIPRODUCE 羽衣 第21回 『愛死に』

 煉瓦の壁だ。上手の壁、下手の壁がハの字に置かれ、真ん中奥にも煉瓦のかきわりの壁がある。下手に窓のかきわりがあるが、本当に穿たれているのは上手の二階の四角い窓で、小さいバルコニーがついている。ロミオとジュリエットだね。それはとても古い話らしくて、煉瓦は落ち、あちこちが大きく漆喰で塗り込められていたのだったが、と書くのも、このかきわりはバスター・キートンの命がけの喜劇風に、すばやく姿を消すのだ。その「うしろ」を踏んで、死にきれない愛を抱いたものたちが現れる。まず踵をあげ、前に出し、ゆっくりそのまま下ろす。その時にはあとの踵が上がっていて、次の一歩を用意している。男たちは出さない手紙を書いていると独白し、女たちは夜の窓を語る。一歩、一歩、黒い服の男女が歩き回るたびに、その白い素足はひらひらと、深夜の蛾のように見え、「夜」の窓ガラスをゼラチンのように柔らかくして、男たち女たちを混ぜ合わせていく。

 と、場面はここで一転し、糸井幸之介は愛し合うものたちのセックスの函をあける。まず、「ヒュルリララ...。」「アチチチ...。」という掛け合いが、わからない。宮澤賢治オノマトペなのかな。宮澤賢治でも、趣味が合わないと感じることはある。役者が云えてないのかも。女1(深井順子)の「おほほ」という科白は本当に夜の孤独な空気にあっていて、美しかった。これって「音」を大事にする芝居だと思うのだが、このセリフに匹敵するほど深く感じられるものがない。きれいな歌唱でなくともちっとも構わないが、声の芯、心の芯が歌に表れない。不良少年(平井寛人)が叫ぶ愛の叫びにも、「音」の中に切迫した心が現れていないので残念だった。

 愛、セックス、その構成は素晴らしい。抒情も美しい。ただ、歌がきみょうに聴こえた。だから「妙ージカル」なのかな。