新国立劇場小劇場 JAPAN MEETS...―現代劇の系譜をひもとく―Ⅻ『怒りをこめてふり返れ』

 遠い奥の扉の向こうに白い光が射し、手前に向かって、大きくしっかりと遠近法で作られた屋根裏部屋。横に並列に見るのではなく、縦に、扉から戸棚、台所、ダイニング、居間が仕切りなく見通せる斬新な配置だ。屋根裏自体が、差し掛け部屋のように三角形をしている。下手手前の窓の横にドレッサー、その後ろにダブルベッド、中央手前に肘掛け椅子が二脚、上手にレコードプレーヤーやロッキングチェア、すこし離れた上手の奥にアイロン台が出ている。

 静かにポニーテールの娘(アリソン=中村ゆり)が登場し、アイロンのスイッチを入れてからロッキングチェアに座り、思いにふける。ベッドの窓から風が入り、白いカーテンが揺れる。うすい珊瑚色に見えるカーディガンに、リバティプリントの手作り風ワンピース。芝居が始まると、この女の人が、怒りでいっぱいの、とんでもない夫(ジミー=中村倫也)と一緒にいることがわかってくる。有り余る知識、正義への絶望、階級社会に対する怒り、子どものような無垢、女への憎しみ。全てがない交ぜとなって狭くて広い屋根裏に充満する。(このセットは不思議だ。アイロン台やテーブルが、ある時は2メートルもある巨人の為に作られているようで、登場人物たちが小さく頼りなく思われ、またある時は人物が等身大より大きな存在に見える)大きく見えるジミーは、アリソンを責め続け、緩衝材となる同居人のクリフ(浅利陽介)が、自分がいなかったら二人は既に終わっていたろうと語ると、終わらせていた方がよかったのにと思ってしまう。中村倫也はじめ皆けん命に演じるが、なぜいまこの芝居を?と強く感じる。アリソンの友人ヘレナ(三津谷葉子)は、賢い、辛くも虎口を逃れた女に見えた。50年代のイギリスに対する、私のお勉強が足りませんでした。