渋谷TOHO 『メアリと魔女の花』

 『君の名は』があんなに当たったのは、6年前のあの地震津波の傷を、語りなおして慰め、なだめ和らげてくれたからだ。大きな天災に遭ったあのトラウマと同じように、原発事故のこと、原子爆弾のことも、日本に住む人々の深い傷になっている。あの時、爆発させないために、取れた手立ては何か。どんな態度で、臨めばよかったのか。『メアリと魔女の花』は、それを語りなおしてくれているように見える。鎮めたい。苦痛を軽くしたい。これは私の、良心の痛みなのだ。

 米林が作った『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』に比べて、この作品は数倍面白く感じる。冒頭から観客を燃える森に連れ去り、圧倒する。ほうきに乗った少女が凄い勢いで追手から逃げる。腕のような黒雲が、少女を掴もうとする。どのシーンにも、宮崎駿の刻印がくっきりと押されている。しかし、米林は宮崎から、もう逃れようとしていないし、追いかけようともしていない。宮崎駿の影響を、ストーリーテリングの骨法として受け継ぎ、自分の物語を語る。宮崎は私たちにとって、大切な「語り手と受け手の共有財産」となっているのだ。

 少女メアリ(声:杉咲花)の日常を囲む人々、シャーロット大叔母(声:大竹しのぶ)、お手伝いのバンクス(声:渡辺えり)、庭師ゼベディ(声:遠藤憲一)がトーンを抑え、静かな声を出すのが、とても好ましい。残念なのはピーター(声:神木隆之介)のキャラクターデザインと脚本が、生き生きしていないことだ。神木隆之介がどんなに頑張っても、ただハンサムな少年に見えた。

 動物たちをみると、原発事故で街に放たれた牛や馬を思い出し、心が激痛だ。メアリが花を捨てると潔さにほっとする。そして現実が、そのように進んでいないことを思い、再度胸が激痛なのだった。