渋谷TOHO 『三度目の殺人』

 ピーンと聴こえるピアノのような耳鳴りのような音、現れた三隅(役所広司)は、白っぽい眼をしている。凶いことをする人の眼って、あんなふうに白っぽく見えると思う。ところが、この30年前に強殺の前科を持つ男は、わけがわからない。強盗目的ですねと言われるとそうですと答え、保険金目当てで殺したのですねと言われてもそうですと答える。弁護士の重盛(福山雅治)は弁護方針を変更し続けながら、三隅の二度目の事件に引きずり込まれていく。

 この映画で大事なのは、「わけがわからん」ということだろう。世の中にはわけがわからないことがあるのだ。それを裁く。「わけがわからん」のために精巧なデコパージュ絵画のように腕利きの俳優たちによる演技が積み重ねられ、クローズアップが多用され、夢のような雪景色が映る。三隅と重盛は、どちらがどちらなのかが次第に不分明となり、最後のシーンで現れた三隅は、まるで死刑囚のもとに来た教誨師のようだった。

 しかし、なぜか思い出した『シークレットサンシャイン』で犯人が突然聖性を帯びたときのあの驚き(デコパージュを突き破って教会の塔が出たみたいな)に少し欠ける。みんな、「わけがわかって」いるんだろうなー。唯一「わけがわからん」のは斉藤由貴の演じる母親で、たぶん、この人は自分の「わけがわからん」のだろうと思う。デコパージュの後ろに、黒く穴が開き、巣食っているひっそりとした生きものが見えるようだった。次回も期待。

 空っぽの三隅と翻弄される重盛の関係はよく考え抜かれているし、広瀬すずは難しい役だが品のある芝居で演じきった。でもこの設定を差し出されるのに戸惑いがある。どちらも手つきがあまりに「わけがわかる」のである。