Bunkamuraオーチャードホール 『55th Anniversary The Chieftains チーフタンズ来日公演2017』

 日本人を踊らせた!ミヤザキハヤオくらいの年配の、ミヤザキハヤオくらい一言ありそうなおじさんやおばさんを!と、つないだ両手を上げたり下げたりしながら、ブルターニュケルト音楽の悲しいような切ないような、美しい節に乗って通路や舞台を進んでいく聴衆を見守る。1997年のコンサートに行ったけど、その時はわたしぴょんぴょん飛び跳ねていただけだったような気がするなー。

 とても情報量の多い、充実したコンサートだった。林英哲の太鼓、ピラツキ兄弟のステップダンス、古謝美佐子上間綾乃の沖縄民謡、スコットランドバグパイプ(東京パイプバンド)、日本の合唱団(ANONA)、日本人のダンサー(タカ・ハヤシ、アイリッシュダンスカンパニー)、それらが皆チーフタンズの模様のようにちりばめられる。

 チーフタンズの全員で、ヴォーカルのケヴィン・コネフと同じ感じに、自然な自分の声で一つの歌を歌う場面があったのだが、そこがなんだか素晴らしかった。なんていうか、合わせているけど、揃えていないのだ。一人一人がきちんと自分で、自分のペースで声を出している。煙草を吸っていれば(吸ってないけど)吸ってるまま、料理をしてれば(してないけど)してるまま、なにもしてなければしてないままのその「わたし」の場所から声が出ているのだ。なんか、行ったこともないアイルランドが感じられる。

 「ただ実は、僕の方から『絶対こういう風にして』と強制したことはないんだ。」(パンフレット、パディ・モローニ)

 そういうことなのねと思うのである。チーフタンズが55年続いてきて、時を経るごとに成長し、いろんなミュージシャンとセッションし、磨かれてきたのはパディ・モローニのこの姿勢が大きいのだ、きっと。

 皇后陛下ご臨席でちょっと改まった感じの客席だったからか、パディ・モローニはティン・ホイッスルが4本立ててある自分の席に着くと、「ふー。」と一つため息をつくのだった。観客は皆くすっと笑ってリラックスしたように見えた。膝に置いているのは「イリアンパイプス」、形状を説明するのが凄く難しい。皮袋とふいごと数本の笛(?)から成る不思議な楽器だ。ひじの下にふいごを挟んで、それを押して皮袋に空気を送り込む。でも見たところパディ・モローニは笛(?)に両手の指を当てて、ひらひらと動かしているだけ。難しいんだろうけど、簡単そうに見える。

 ふわっとつむじ風が起こるように演奏が始まる。アイリッシュハープ(トリーナ・マーシャル)、フルート(マット・モロイ)、バウロン(ケヴィン・コネフ)、フィドル(タラ・ブレーン、ジョン・ピラツキ)、後方にギター(ティム・エディ)。葉っぱが風に起こされて環を描いたり、静まったりするみたい。つむじ風が激しくなったところでステップダンスの人々(ネイサン・ピラツキ、キャラ・バトラー)があらわれ、フィドルのジョン・ピラツキも加わり、踵からつま先から、火花が出るようなダンスをする。風がくるくる回りながら高い空に昇り、「フォギー・デュー」(歌:アリス・マコーマック)を聴いているときは、夏目ソーセキのいう颶風(ぐふう)の吹いてる空の静かな雲を眺めている気持ちになり、涙出ました。

 日本の人はみなよかったけど、やっぱどうしても「揃えよう」としちゃうのかな。そのような国民性だよねー。上間綾乃が一生懸命うたった「てぃんさぐぬ花」や、「アンドロ」の時のバグパイプの音の厚みが、とてもよかったです。