渋谷TOHO  『リバーズ・エッジ』

 「原作に、勝ってないけど負けてない」川柳か。

 1993年、世界はもう、ざらざら、べとべとしたものを排除しつくして、つるつる、ぴかぴかしていた。景気のいい時代はそぉっと終わろうとしており、そもそも、「世界」ってものが、全く実感できなかった。どこをさわってもつるつるの、その閉塞感。特に大人を選び取らなくても、こどものまま生きていける不思議。周りを見回すと、こども、こども、こども、老人だろうが紳士だろうが関係ない、変化の訪れない中で息をする、私たちは皆こどもだった。

 漫画『リバーズ・エッジ』はそんな時代を截りとった稀有の作品だ。「こどもの時代」に、本当にこどもであること。愛と、セックスと、暴力がこどもを蹂躙する。世界の破れ目として川原の「死体」が登場し、主人公の高校生たち――若草ハルナ(二階堂ふみ)、ゲイであることを隠している山田一郎(吉沢亮)、摂食障害のモデル吉川こずえ(SUMIRE)は、深い井戸を覗き込むように死体を見る。ほんとは井戸底の水に、自分の顔、自分の目玉を映しているんじゃないのか。映画は原作リスペクトできっちり作られ、例えば山田が売春するシーンを半裸の立ち姿の所で切ったりしない。

 「原作に、負けてないけど勝ってない」

 インタビューシーンが、すこし、ほんの少し「つくり」がわかっちゃう。応えられないのもちょっとつまらない。二階堂ふみは心と体がばらばらの、「涙の出ない子」としてこの世界に棲んでいるのだが、表情がもう、「選んでしまったこども(つまりおとな)」だ。

 全体に「作為」が見えるところが、弱い印象を産んでいると思う。「作為」は大人のものだ。「大人(の男)がインタビューしている」のは、原作に対して誠実だけど、やっぱ、ざんねん。