日生劇場 『ラ・カージュ・オ・フォール』

 昔々、あるところにゲイカップルがいた。片方は働き、片方は主婦になった。最初は対等だったけど、主婦になったほうは段々に「女扱い」され、目下にみられ、軽んじられていく。「女の人は、この扱いを、どうやって耐えているのでしょうか。」って話を思い出した。『ラ・カージュ・オ・フォール』が大当たりしたのは芝居が面白かったのはもちろんだけど、その底の方に抑圧されている観客の女の人たちの共感があったからじゃないのかな。ザザ(アルバン=市村正親)の歌う、ありのままで生きてきた、好きなように生きるというのは、ゲイだけでなく、女の人にも難しい。ついこの頃になっても氷のお姫様がおんなじことうたっているもんね。

 そう思ってみると、アンヌ(愛原実花)の母ダンドン夫人(森公美子)は性格づけがはっきりしない。芝居全体が野の花を目につく限り全部摘んで花束にしたようになっていて、それはそれできれいだけど、いかにも長く、メリハリがない。演出で焦点化したいのはどこ?

 意外な感じで登場するアルバンでとても笑った。彼は溶けそうにソフトで柔らかい体つきに見え、すてきなブレンドハーブティーのような甘い香りがしそうだ。対するパートナーのジョルジュ(鹿賀丈史)は明るく軽く、瀟洒だが、息子のジャン・ミッシェル(木村達成)がアルバン抜きで恋人の家族と会おうとしているのを知ると、なぜかくらっと周りの空気が翳ったようで、軽く優しい彼の心が、薄く怒りを刷いていると観客に解る。

 舞台で繰り広げられるショウがすごい。タップもカンカンも上背のある体で演じられる迫力と、筋力ある手足から生まれる速度で、見たこともないようなものになっている。これ、いま日本で見られるショウの最高峰じゃない?