日生劇場 『リトル・ナイト・ミュージック』

 「天下麻のごとく乱れ」という言葉が、ソンドハイムを聴いていると思い浮かぶ。難しい。乱れてる。その上に浮橋を架けるように旋律が載る。難しすぎて曲の姿がほとんど見えない。

 舞台にはウォータン(神さまの)でも現れそうなシンプルな坂、天井から6つの明かりが思い思いに下方を照らす。白夜の話だったなと原作のことをふと考えた。

 舞台の光量があがり、上手から誘うような不思議なソプラノが聞こえてくる。夜9時、10時、世界はいつまでも薄暮の中、何時になっても眠れはしない。ノードストラム夫人(彩橋みゆ)、セグストラム夫人(飯野めぐみ)、アンダーセン夫人(家塚敦子)、エアランソン氏(中山昇)、リンドクイスト氏(ひのあらた)が登場して歌うシーンですーっと北欧の時間に入れる。ミセス・アームフェルトの木野花は、パンフレットで『リエゾン』の出来を気にしていたが、「リエゾン」という言葉を発するとき、そこに色彩が載り、曲としてまとまっている。風間杜夫の『今』というナンバーは、もひとつ「麻」の中に紛れてしまっていて残念。生来の「かわいさ」や培った「技術」で、乗り切れるよう祈ります。ヘンリック(ウェンツ瑛士)は、悍馬のような曲をなんとか歌いこなし、しっかり橋が架かっている。

 一番よかったのはSend In The Clown、女優のデジレ(大竹しのぶ)の歌だ。歌を稽古したたくさんの時間まで、曲の表情、艶になって映りこんでいた。

 ベルイマンの原作『夏の夜は三たび微笑む』で、私は不羈で現代的な感じのする女中のぺトラが好きだったのだが、瀬戸たかの(カトリーヌ改め)のぺトラもいい。この芝居はなぜか、女性の生き方の群像劇という感じがとてもした。