新国立劇場中劇場 『ヘンリー五世』

 ザ・戦争。戦争のいろんな貌を、2時間50分(休憩20分)でぎゅっと圧縮して見せてくれる。「聖クリスピンの祭日の演説」っていう、戦い前のヘンリー五世の台詞が有名で、ほんとの戦争の前に上演されたりして、愛国心を鼓舞する芝居とも言われているが、鵜山仁の演出は、ここを盛り上げたりしない。フランス軍(青)、イングランド軍(白地に赤い十字)の旗が交互に現れ、戦争の相対的な姿が強調される。でも、演説を聞いて、一般人の目が寄る、興奮状態になる怖いシーンは、ちょっと見たかったかなと思った、戦争には、異様な光景がつきものだから。

 兵隊のバードルフ(松角洋平)が教会泥棒をしてつかまり、舞台奥から、手前に立つヘンリー五世(浦井健治)に野良犬のような切ない視線を投げ、それを王が受け止めるところ、よかった。浦井健治の立ち姿が急に削げて痩せ、野良犬だったころのハルの心が震えているのが見えるようだった。

 衣装がとても美しい。フランス皇太子の使節(川辺邦広)が、両手をふわっと広げつつ膝をつき、青いマントを広げる仕草がとても綺麗で優美だった。フランスな感じ。但し、ヘンリー王の登場時の白のガウン(ローブ?)、最終場の赤と黒のガウン(ローブ?)は、浦井健治の顔と首がほっそりしているために、真横から見るとバランスが今一つに感じられた。

 エクセター伯(浅野雅博)だのフルーエリン(横田栄司)だの素敵な人、おもしろい人が盛りだくさんに出ている。その中でランビュアズの玲央バルトナーが、吃驚する程ハンサムだった。初舞台だそうだが、ここは少し我慢、芝居しすぎちゃだめだよ。下から上へとゆっくり首を動かして見上げる古材を組み合わせたセット、吠えかかる二匹の巨大な犬のよう、又は縺れに縺れた人々の思惑のよう。