渋谷HUMAXシネマ 『犬ヶ島』

 黒澤明(1910-1998)、『七人の侍』。子供の時に、テレビで初めて見たの。攻めてくる野武士、土砂降りの中の切りあい、三船敏郎の激しく鋭い身のこなし、宮口精二がむかっ腹を立てながら(と後年知った)横っ飛びに吹っ飛ばされる壮絶なシーン、こどもには何もかも驚異で、この映画を「所有したい」と思うあまりにノートにセリフを書き起こしたりしたもんだった。凡庸なこどもは所有したいと思うところで終わりだけど、ウェス・アンダーソンはクロサワを含めた日本を題材に、映画(それもパペットアニメーション)を撮ろうと思ったのだった。始まると、日本語のタテガキの説明や、鉦や太鼓を叩く3人の少年たちが、必要以上にちいさーく映る。その軽くて精巧で玩具じみた感じ。これ、日本のトータルイメージなんだろう。

 今から20年後、日本のメガ崎市では、犬の伝染病が大流行し、人間への感染が懸念されていた。権力者小林市長(声:野村訓市)は犬たちをごみの島へと廃棄することを決める。小林市長の養子アタリ(声:コーユー・ランキン)は彼の護衛犬スポット(声:リーブ・シュレイバー)を探して小型飛行機で「犬ヶ島」に何とか降り立つ。要は不時着なのだが、この不時着が説明なしでクールなところがいい。スポットとアタリが心を通わせるシーンも、護衛と親しくなってはならないという邪魔が入るために、説明抜きでものすごく濃く感じられる。イヌたち、ちょっと涙ぐむシーンが多すぎかな、決め手のシーンが弱くなる。

七人の侍』は、クロサワが「過去」を(こんな戦争だったらよかったのに)と、「どこにもなかった理想の戦争」として語ったものだった。ウェス・アンダーソンは、「いま、ここで、こうであってほしい日本の未来の理想の結末」を切実に見せてくれているような気がしてしまったのだった。