松竹新喜劇 劇団創立70周年記念公演 『人生双六』『峠の茶屋は大騒ぎ!!』

 懐かしい昭和30年代風の、ほんわかしている音楽。たちまち目の裏にホンダのカブやらオート三輪が走り出し、つっかけの、買い物籠を提げた女たちが行きかう。なつかしー。

 緞帳に青い明りがあたり、現れた舞台に青く雪が降っている。若い女が二人(前田絵美、千草明日翔)下手から上手へ横切っていく。雪道での「滑り方」がめっぽううまい。この後出てくるイタ公(植栗芳樹)も、「滑り方」がとてもよかった。イタ公とマー公(久本雅美)は土管に棲んでいて、行き暮れて登場した宇田信吉(藤山扇治郎)と言葉を交わす。藤山扇治郎藤山寛美の孫か。なつかしー。て、それでいいのか。鞄を胸に抱きしめて立っている姿も、後姿も、いちいち、「よっ大学出」「青年座」と掛け声掛けたくなるほど瀟洒でまじめだ。この人きっと『銀二貫』の寒天問屋の松吉とかぴったりだったよね。

 寛美と藤山直美は、善悪共になしかねないところが細胞の配列から似ていて、あのアウトローぽい感じ、破天荒なキャラクターで役を作っていたと思う。もしかしたら扇治郎にもそんなキャラがあるのかもしれないが、ならもっとたくさん芝居に出ないと出てこないし、ないならないでいい。そして「なつかしー」と客に言わせっぱなしの松竹新喜劇は、これからどうするつもりなのか。老舗の劇団で、プライドも高いのかもしれないけど、永井愛さんに脚本依頼するくらいじゃないと展望ひらけなくない?

 あとパンフレットの久本雅美の下り、「(松竹新喜劇)への出演で、得ているものは大きいだろう。」ってなに?久本雅美はばったり倒れても哀れに見えない女のお笑いのパイオニアだよ。リスペクトなさすぎ。それとは別に久本雅美は、声に注意が必要。これ以上声が掠れたらまずい。声を大切に。腰もお大事に。