シアターコクーン・オンレパートリー2019 DISCOVER WORLD THEATRE Vol.5 『罪と罰』

 ドストエフスキーって、読むたびにびっくりする。「ええー」「そうきたか」私の読んだ本の中では、一番くらいにびっくり度が高い。あと女の人たちの一筋縄でいかなさも一番。びっくりしたい人、ご一読ください。

 今日の『罪と罰』はとても優れた芝居だった。難を言えば、モブシーンが平板、並列的で、ドストエフスキー的なこてこての、油絵の具の上に油絵の具を次々に盛り上げていくような熱狂的な祝祭感が薄い。

 装置はところどころに平場を設けたねずみ色の大階段、よれよれのマットレスや長椅子や脚立、ぼろの椅子がひっくり返っていた。(すぐあかぎれを連想する。水仕事で切れた指先となんか親和性があるのだ)社会の最底辺、その一番下にラスコリニコフ三浦春馬)のベッド代わりの長椅子が位置している。これに対してラスコリニコフを追うポルフィーリ(勝村政信)は、上がりきった階段の奥の暗がりから現れる。大きく開いた口のように、暗い奈落はラスコリニコフやほかの人物を待ち受けているのだ。開けっ放しの口蓋の粘膜に舌が貼りつくのに似て、ラスコリニコフの「人を殺す権利」の犯罪の裏には、女――セックスの問題が貼りついている。教会の鐘の音と呼び鈴の音、脅え、いきりたち、またドストエフスキーのように失神し、青ざめ、怒り、ラスコリニコフは彼の運命を行く。三浦春馬、目の覚めるような、心ふるえるような好演で、素晴らしい。冒頭の台詞が浅く硬いのは初日のせいかな。松田慎也、勝村政信が目立っていい。三浦春馬と松田慎也に一つずつ「若者アクセント」あったけど一瞬時空飛んだよね?あり?南沢奈央足音が大きいのと、台詞早口すぎる。大島優子内省的に(自分に)台詞云おう。麻実れい、発狂してからの「家なんかないんだよ」大切に。