シアタークリエ 『レベッカ』

 「モンテカルロ」という、微かに軽薄さを漂わせた明るい土地から、広大で陰鬱な、秘密でいっぱいの「マンダレー」のお屋敷へ、物語は跳躍する。1926年、21歳の「わたし」(平野綾)はうわさ好きの上流婦人ヴァン・ホッパー(森公美子)の〈お話し相手〉として雇われているが、同じホテルに泊まっている「マンダレー」の持ち主マキシム・ド・ウィンター(山口祐一郎)と、あっと言う間に結婚することになるのだ。おずおずした、世慣れない娘なのに、上流の中の上流ド・ウィンター夫人となった「わたし」を待ち受けるのは、マキシムの死んだ前妻レベッカの影である。「マンダレー」の家政を取り仕切るダンヴァース(保坂千寿)をはじめ、屋敷にはレベッカの思い出、その趣味、その指跡が充満している。圧倒される「わたし」、驚くべき告白を受けて、「わたし」とマキシムとの関係はどうなっていくのか。

 …というような話だけど、実はこれ、「隠され」「秘められ」、決して表ざたにならない種類の愛、二重の同性愛がベースになっているんじゃないかなあ。「禁忌」となった途端、同性愛は魔を呼ぶ。

 保坂千寿、立派に歌いこなし、演じきっているが、ちょっと、魔が少ない。それはこの芝居全部に言える。山口祐一郎を以前観てから10年以上たっているけど、ささやくような生気の薄い、説得力のある芝居になってて、これまでの苦闘が思われた。でも少し弱い。平野綾、台詞の声に「全部載せ」で全て表現するのやめた方がいいと思う。声で表わすのは五分(ごぶ)以下でいいよ。あとは身体と表情で。「わたし」とダンヴァース、マキシムとの二重唱、今日はいまいちだった。森公美子、ぎりぎりまで役柄を膨らませていて、後半出て来てうれしい。ベン(tekkan)の歌がとてもよかった。衒いなく繊細だった。