シネ・リーブル池袋 National Theatre Live In Japan 2019『英国万歳!』

 ナイジェル・ホーソーンの『英国万歳!』、ああ観た観たと思うのに、思い出そうとしても、走るホーソーンを全力疾走でおつきの人が追うシーンしか出てこない。それは宮廷中が輪になって王様を囲み、宮廷ごと走って移動してるように見えたなあ。

 ジョージ三世(マーク・ゲイティス)は生真面目に仕事を果たすハノーヴァー朝のイギリス王だ。或る晩、眠りにつく彼は腹痛に苦しむ。それを境に王は「狂気」に捉えられ、彼の家庭―宮廷―政治―英国は大きく震撼するのである。

 前半、「狂気」に陥った女が王を襲う。王は大して動揺もせず(史実らしいけど)「狂気」を大目に見る。この時、不思議だったのは後ろに立っている従者、廷臣たちがぜーんぜんびっくりしないとこである。「狂気」の女もなんか切迫感がない。ここ、大事なとこじゃないかな?「狂気」についての前振りがなされ、廷臣たちがてんでにざわざわすることでもう一つの柱「ばらばら」がはっきりするんじゃないの?

 ジョージ三世はアメリカを失ったこと(ばらばらになったこと)を深く憂えている。病気の昂進とともに、性的な抑圧も口を衝いて出る。

 マーク・ゲイティスの狂気の演技がよかった。「狂気」は彼を動かし、下品なことを言わせもするが、その「狂気」の後ろに、「狂気に困ってる常人」が見える。狂人を侮蔑的に扱うおつき、政治的に動く医者たち、王をおろして実権掌握を図る皇太子(ウィルフ・スコールディング)、窮地の首相(ニコラス・ビショップ)、様々な思惑が交錯し、政治家と医者を同じ役者(女性=アマンダ・ハディン、ステファニー・ジェイコブ)が演じることで、ふと二つの「下心」が重なって見え、優れた演出だと思った。