三越劇場 『六月花形新派公演 夜の蝶』

 君は夜の銀座を見たことがあるか。夕方タクシーがばたんばたんときれいに髪を結い上げた女たちを路上に吐き出し、七時半にもなるとその女たちと食事した客が、得意満面で「同伴」してバァに向かう。目線をどこにやってもきれいな女の人とおじさんしかいない風景。わたしびっくりした。「餡パンとデパートと劇場の銀座」、昼の銀座とはまるきり違ってる。

 今日観た『夜の蝶』はその銀座の一流バァ、「リスボン」と「おきく」のせめぎあいを店の中から見せる芝居。

 なんかよく…わからなかった。脚本が登場人物を次から次に「リスボン」に呼び入れては帰す冒頭のシーン(説明のシーンである)が平板。回想もあか抜けない。そして、川口松太郎が葉子(河合雪之丞)とおきく(篠井英介)に喋らせる内容がもう、(記号か?)と思うくらい紋切り型で退屈だ。ロミオとジュリエット的な展開になっていくのなら、そこをおさえるとかしないと、全部が総花式でつまらない。「おきく」のセットが蕎麦屋みたいで興ざめだった。

 役者は頑張っていて、周旋屋の秀(黒田秀二=河合穂積)がいい。さらりとした裏方振りで、芝居がなめらかに始まる。お景(瀬戸摩純)もとても小ママっぽい。おきくに附いてるお春(山村紅葉)が唯一、本音の心をすぐ顔に出し、客(中里=喜多村次郎)が開高健そっくりで笑った。たのしんで芝居するのって大切だなあ。

 篠井英介、客席から登場の横顔がくらく、硬い。全ての台詞をきちんと言おうとしており、わかるけど、楽しもう?さらりと流す台詞は流そう?もっとばりばりお葉と戦った方がいいよ。

 喜多村緑郎、感じ悪い自信過剰でいいんじゃないの。この人は決して主役ではない、奥さんとバァのマダム、二人の天使に支えられた昔懐かしい昭和の男だよ。