中洲大洋映画劇場 ナショナル・シアター・ライブ2019 『アントニーとクレオパトラ』

 拮抗する世界。最初アントニーはリゾートのような「私」(わたくし)の楽園エジプトと、灰色のビジネスマン、暗い軍服の「公」(おおやけ)の世界をうまく操ってバランスを保ち生きる。公私の別みたいだね。

 でもちょっと待って、リゾートなの?アジアを侵食した西洋人の悲劇?まあそれならそれで…いいよ。成立してる。でもアジアに対する省察が、も少しあってもいいかも。

 クレオパトラ(ソフィー・オコネド)とアントニーレイフ・ファインズ)の恋は、『ロミオとジュリエット』の中年版にも見える。そのうえ、「女の思い通りになってしまう自分」「嫉妬」「過度ないちゃつき」と、恋愛のこれってどうよと思われる側面を、思い切り見せつける。レイフ・ファインズは、しぼれば簡単に体しぼれる人だろうけど、そうはしてない。しぼらない方が、悲哀が倍増しだ。「私」(わたくし)、「リゾート」であるクレオパトラとエジプトが、アントニーを侵食しつくし、共に滅びてゆく。

 制服―リゾートとわけ、スピーディに二重の回り舞台を動かすことで、芝居は一瞬も停滞することなく、きびきびと進展する。

 シーザー(タンジ・カシム)、口跡もよくていいのだが、オクテーヴィア(ハンナ・モリッシュ)が顔をおさえて悲嘆にくれる時、無理やり体に触るよね。ここ、あれ?と思うけど、アントニーの剣と差をつけてる。でも、オクテーヴィアをなだめる時デリケートでない心的理由づけが少し不足。イノバーバス(ティム・マクマラン)が、アントニーが海戦に打って出るという話の頃から浮かない顔になり、最後の仕儀に至るまでとても説得力がある。蛇が生身で凄い。やっぱり身をくねらせるきれいな蛇じゃないと、あのすばやい決定的な終わりに納得できないよねー。