シアター風姿花伝 カクシンハン第13回ロングラン公演「薔薇戦争」WARS OF THE ROSES 『ヘンリー六世』

 文句はいろいろあった。劇場のサイズ感がつかめていず、皆怒鳴って声が割れている。只でさえ役柄の把握が難しいのに、赤薔薇ランカスター家のグロスター公ハンフリー(別所晋)と白薔薇ヨーク家のリチャード・プランタジネット(大塚航二朗)が、髭の生やし方から顔の感じまでが似通っていて見分けにくい。工夫はされているが、脚本以上のことが起こらない。どうしたのさー。

 しかしそれもヘンリー六世(鈴木彰紀)の独白にかぶせて三味線が鳴り響くまで。ここで本当にはっとする。居並ぶ赤いジャージと白いジャージの人々を割って、冒頭でヘンリー王はホイッスルを吹き鳴らし、今から「外的な時間」「ゲーム(戦争)の時間」が強制的に流れることが、ユージ・レルレ・カワグチの刻むドラムスもあって一目瞭然なのだが、それとはべつに、三味線は、「内的時間」「個人の時間」が歴史にはあり、それは自由に伸縮しながら生き物の中を「流れている」と「わからせる。」ん?してみるとキャストの人たちは、もっと個人時間生きなくちゃダメじゃない?簡単に言うと、深さが足りないよ。全体の時間の時は怒鳴ったとしても、劣等感卑屈追従嫉妬愛怒りなど、心底から、心の裂け目からやらなくちゃ。カクシンハンはどっちかというと、スキル優先になりがちで、「肚から言う」っていう愚直なとこが薄い。ついでに言うと、肚から言うのと怒鳴るのは違います。

 最後のマーガレット(真以美)の慟哭はすばらしかったが、他の箇所ももっとできる。

 私はウォリック伯の野村龍一に一番可能性を感じた。とんでもない恰好でいい台詞を言う面白い役で、この配役に野村はよく応えていたと思う。ヨーク家の記念写真の後ろに、観客の私たちはいる。「小休止」の平和の時間に、流れ込んでいる。