紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA  PARCO PRODUCE 2019 『人形の家PART2』

 「あー、ハンマースホイ

 微妙に粗く、そして丁寧に塗られたうす水色の壁と、そこに白く低くめぐらされた腰板を見て、デンマークの画家のことをすぐ思い出すのだった。ハンマースホイは女(妻)の後姿や、ひと気のない室内をよく画題にした画家で、静謐な品の高い画風で人気がある。と思ってみるとヒロインのノラ(永作博美)の結い上げた髪は、つやつやした美しいシニヨンではなく、ハンマースホイの絵の、妻イーダの髪のように少しぼさぼさに乱れている。

 これ、どういうこと?よく考えれば、ハンマースホイが「静謐」で「品がいい」のは、「だれも何も語ろうとしない」からかもしれない。ハンマースホイが見ようとしなかったものとは何か?人事だね。栗山民也は背を向けたイーダを振り向かせ、そのびっくりするほど所帯やつれした、疲れた「女の顔」を暗示する。全体に破綻のない、優等生の芝居ではあるが、何よりも、よく言われるように、ノラがひどい身の上になっているという話でなくて本当によかった。この『人形の家PART2』では誰もがよく語る。ノラは、古くからの奉公人アンネ・マリー(梅沢昌代)、夫トルヴァル(山崎一)、娘エミー(那須凛)からの批判にさらされる。「こどもを置いて出た」「たやすい道を取った」、ノラはその批判の一撃によろめくような傷を受けながらも(もっとよろよろして)、毅然と、誠実に会話を進める。

 那須凛、ホットケーキがふつふついうような母への怒りが口を開けていていいが、トルヴァルに出てゆくよう言われた時はどんな気持ちなの?永作博美大竹しのぶを尊敬しているのか、台詞回しが似る。ノラのように「自分」を探してほしい。徐々にでいいから。イーダ・ハンマースホイの顔、見た?