恵比寿ガーデンホール 『Live Magic』 2019

 曇り空のエビミツ、ついふらふらと、ラベンダー色のマニキュアとか買うのである。今年のライブマジックは、おっとりした人工衛星の心持で、つーと見学した。

 まずバラカンさんのオープニングのあいさつ、13:00の8分前。8分できっちり、テキーラベースのスペシャルドリンクから、グッズの説明までし終えて、アフロポリタンバンドが登場する。「4人って言ってたけど6人のようです」とバラカンさんが少し困ったような、可笑しそうな様子で紹介する。黒い山高帽、黒ジャージ、黒の足首まであるかっこいいスニーカー。ヴォーカルだ。

 《You can be Afropolitan》

 と、歌う後ろに、ハーレキンのように大きな市松(黄色とアフリカの青い模様の)の衣装を着た人たちが、初めて見るアフリカの打楽器の位置につく。

 背の高い、足の方がすぼまった双子の太鼓、手で叩くジャンベ(ブルキナバスケットに外見が似てて、縁に音を出す金属のへら状のものに細かいリングが一列にじゃらじゃら下がっている。音を響かせるためかその下に馬上杯の足みたいなのがついてる)、三つの高さの三つの違う音を出す太鼓、バラフォン(木琴。木の音階部分の下に、素焼きの壷のように見える瓢箪が据えられていて、音を共鳴させる)、それから、小さい舟形の胴に皮を張ったギター様のもの。名前教えてくれたけれど、聞き取れなかった。

 ちっちゃなポロのスティックのようなのを右手で撥として使い、左手は素手で叩く。太鼓の拍子を繰り返すように観客にいうけど、この拍子がすごーく難しい。一拍の半分(の半分?)くらいうすーく休符が入っていて、とても私には再現できない。

 曲が終わると見せて、ちょっと休止した後、倍速で始まる。皆日本語が上手。一人東洋人(韓国の人、ムーンさん)の女の人がいて、ジャンベにあわせてアフリカンダンスをする。上半身を倒して激しく強く、膝を大きく曲げて足踏みし、太鼓に踊らされているように見える。これさー、ある程度長い時間やって、ちょっとトランス状態になる感じなのだろうか。いまいちグルーヴの在処がつかめない。ただ、アフリカの太鼓にとても敬意を持った。『狼少年ケン』とか、めっそうもないと思いました。

 喫煙所になっているベランダに出ていたら、ラウンジで16歳の小林ケントのギター演奏が始まる。白とグレーのコンビのトレーナー(って今はもう言わないのか)と、ジーンズ。ジーンズの裾はお洒落に靴の上にたまってて、その靴はマスタードカラー。確かめるために出す音、チューニングの音がきっぱりしてる。自信ある音。アルバム三枚出してるもんね。お医者さんなどになっていそうな顔の若い人だ。躰に比べて、指が長く、手がとても大きい。ギターの絃の上を右手で叩いてリズムを取りながら、ベースみたいな音を出し、きゅいいんとネックを揺らしたり、上からネック部分の絃をなでて変わった音を聞かせる。

 「こんばんは」昼やん。とてもにこやか。マスタードカラーの靴はギターのボディとコーディネートしていたんだね。続けてビートルズのドライブマイカー、それからマイケルジャクソンのスリラー。低音の伴奏とメロディを一人で弾く。一人で凄いな。低音のあの有名なフレーズがずっと鳴っている。そして80年代のケアレスウィスパー。アレンジしてまだ五日と言っていたが、安くならない。甘くない。原曲のもともとの良さに気付かされる。お医者さんにも将棋指しにもなれたと思うのに、ギターを選んだ小林ケントよ君に幸あれ。

 ホールが気になって入っていくと、シーナ&ザ・ロケッツの火の出るような本息のリハーサル。プラチナブロンドに長い髪を染めたかわいい女の人がヴォーカルをつとめている。なんか、やっぱりシーナに似た人選ぶんだなー。とぼんやり思う。鮎川誠は、「よろしくー。三時からー。」といいながら、にこにことステージを下がる。

 後ろの椅子に座ってしばらくぼーっとする。バラカンさんが現れてシーナ&ザ・ロケッツの紹介。2音、ドラムスが叩いただけで椅子から飛び上がる。キタ!バットマンのテーマだ。それから41年前の曲。なんて言ってるかひとっぱもわからない。けどいいの。とにかく座っていられない。鮎川誠は今朝仙台からこまちで帰ってきたそうだ。きつかろうねえ。とおもうが、「ぱっと光って消えちまう」(『ホラ吹きイナズマ』)と鮎川は歌いつづける。ギターソロ。ベースと二人で寄って演奏する。ヴォーカルのルーシー・ミラーは鮎川誠の三女だそうだ。ええー。昔10歳くらいのお姉ちゃんが、この人をおんぶして歩いていたのを見たなあ。プラチナブロンドの長い髪に、お姫様のティアラがきらきらして、ホットパンツに後ろが裳裾になったロックプリンセス風の青いスカート(?)、黒のレザージャケットを羽織ってる。やっぱり何を言ってるか聴こえない。後半になればなるほどルーシーの歌はよくなったけど、今度は鮎川誠のギターが重くなってしまう。指が重い?やっぱきつかったとかね。

 2月14日のシーナの命日に19枚目のアルバムが出るそうだ。11月23日には下北沢のガーデンでバースディライブがある。I love youという掛け声を観客に頼むとき、鮎川誠は「練習はしない。ROCKはいつもなま。」という。かっこいい。ROCKを通じて本質に近づくシーナ&ザ・ロケッツである。

 昼、柏ナーディスでライヴを一回やって、三時に千葉を出、20分でセッティングして、4時40分からまた本番(ライブマジック)のスタイナー・ラクネス。バラカンさんに紹介され、客席の方を向いてにこっとする。心ひらいている。大事だよなあ。そこがうまくいってない人って結構見かけるよ。

 ウッドベースの絃の向かって左横に、弓を入れる矢筒様のものがついている。スタイナー・ラクネスは弓でフレーズを弾いては矢筒にしまい、ペダルを踏み、指で弦を弾いたり、また弓を出して弾く。しばらく、何をしているのかさっぱりわからなかった。最初に弾くフレーズをループで再生し、重ねあわせて演奏しているらしい。すごいことができる世の中になったねえ。一曲目は2018年のアルバムChasing The Real Thingsから、アルバムタイトル曲。繊細なハミング、そして口笛をベースのf字孔に吹き入れる。Maggie’s Farmの次はI’m On Fire。ブルース・スプリングスティーンの曲だ。スタイナー・ラクネスの演奏、歌を聴いていると、「中身が鳴ってる」と感じる。ベースと同じように体の中が洞になっていて、どちらも共鳴し合っている。内側の声だ。Folks And People 、Killing The Bluesと弾きつづけて、突然ぶつっとマイクに音がする。あー、20分でセッティングしたからねー。惜しい。最後のCameleonを聴いていたら、60年代の「エレキギターのかっこよさ」が8つの玉に飛び散って、民族音楽やクラシックの楽器に取りつき、一つがこのベースに憑依しているように思った。

 

 Myahk Song Book-Tinbow Ensemble。ベースの松永誠剛とブラックワックスの池村真理野(サックスを持ってる、サックス奏者だ)。

 松永誠剛は、まえほど始まった途端音楽に入り込まなくなった、と書きたいけれど、やっぱりベースを揺らしてすぐ「異界のひと」になってしまう。修正する気はないんだな。じゃあミスをしないようになー。

 與那城美和を含む宮古島の女性たちがうたい始める。会場のサイドの壁に寄り掛かって歌声に合わせそっと息を吐くとなんかとても気持ちいいのだった。何だろ。オーカクマクの隅々からまっすぐ、邪気ない地声が空に昇っていく。煙みたい雲みたい。

 「っはいっはいっはい」掛け声をかける。歌う何人かが会場に降りる。高音から放物線を描いてくる声で、声を合わせて歌う。その声を聴きながら外に出る。すると天から降ってくる何か明るいもの。

 休憩。

 最後は小坂忠。バンドが凄かった。レーザーで切り分ける気配、漆黒の靄。こう書いても大げさにならないほど、引き締まっている。ここでね、わたしはっきり言って疲れていた。エチオピア帽(?)をかぶった小坂忠さんと、バンド(Dr.kyOn鈴木茂小原礼林立夫)と女性シンガー(桑名晴子)がバシッと決めるのを聴いていると、しりあいのしりあい(だから知らない人)がめっちゃ踊っている後姿が目に入る。背中のリュックもぴょこぴょこ踊る。音楽好きのお祭り、すてきだねぇ。バラカンさんのリクエストで、小坂忠ジミー・クリフのMany Rivers To Cross。いい歌やん。それからティミー・トーマスのWhy Can’t We Live Togetherを歌う。「この年になるとね、(新しい歌は)大変なんだよ」といいながら、ちゃんとどちらも自分のものにしている。最後のアンコールはYou Are So Beautiful、ゆっくり幕が(キラキラの光る紗幕が)下りてくるみたいだった。