穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース 『荒れ野』

 団地の狭い一室。壁のペナント!世界地図!カラーボックス!サイドボード!どういうこと?時が止まっているよ。まんなかに電気炬燵が一つ、ベランダに出るガラス引き戸は汚れている。引き戸の手前には、ピンチハンガーのピンチに留められたままの洗濯物の下着が投げやりに落ちている。視線を上げていくと、柱と柱をつなぐ梁が、焼け焦げて、炭化しているのに気づく。

 ――あ、死んだ家だ。

 この芝居は、死んだ家に棲む加胡路子(井上加奈子)と、路子を片思いする窪居哲央(平田満)、二人の仲を邪推する哲央の妻の藍子(増子倭文江)の、野火のように燃え広がる心模様を描く。

 ある夜、大火事に見舞われた地区から逃げてきた窪居一家は、路子の家に泊めてもらう。路子の家にはなぜか上の階の住人、せんせい(石川広満=小林勝也)と、若いケン一(中尾諭介)が入り浸っている。

 どの俳優も心の内実が分厚く、トランプを一枚引き抜いたように見えても本当はそのトランプが三枚重ねになっていて、重層的で、簡単に心の裡を覗くことはできない。例えば妻藍子の、夫と路子の関係を探る心。それから前の会社に顔を出すという窪居家の娘有季(多田香織)の心。路子を思う哲央の心。どれもつかめず、知り難い。この中で弱いのは有季のケン一に捨てられたという下地で、ここをはっきり明確にしないと最後の有季の変化がわからない。台詞の中から「こころ」は少しずつ浮かび上がってくる。最後の場、『あなたならどうする』を歌うシーンは、まるで中世の「骸骨の乙女」と男とが一緒にふざける図にも見える。まわりには曠野が、荒涼と焼け跡のように、どこまでもどこまでも拡がっていく。