新橋演舞場 松竹新喜劇二月特別公演 『駕籠や捕物帳』『大阪の 家族はつらいよ』

 まず、「松竹新喜劇二月特別公演」のパンフレットの表紙が、すーごくかわいい。ゲームに出てくる小道具が、すべて和物、といった体(てい)。法被や扇やお城がならび、芝居に出てくる烏賊や章魚がキュートな点々の目を見開き、一つ一つの絵柄はオレンジ色のマス目に収まって、くすんだ黄色やピンクや黄緑色に、綺麗に塗り分けられている。

 ふーん、考え直したんだ松竹新喜劇。ということが、こうした隅々から知られるのであった。

 ひとつ目の芝居は『駕籠や捕物帳』、好色な殿さま(渋谷天外)とそれにそっくりのご金蔵破り(赤鞘主水=渋谷天外二役)がおなじ茶店を通りかかり、殿様と知らずに兄弟分の盃を交わす駕籠やのお蝶(久本雅美)と、相棒で亭主の直作(曾我廼家寛太郎)が笑わせる。「悋気病み」の奥方(曾我廼家玉太呂)も静々と登場し、きちんと芝居を締める。(中臈、腰元のくだりしっかりしていた。)

 久本雅美が、わけもわからぬ素早さで(ギャグが素早い、)小さくするすると土下座して「そこをなんとか」というところ笑った。殿様の家臣の二人は殿の言うとおり歌が下手で、おもしろかったが、あれまじ?甲斐正法、関口義郎がんばってほしい。目明しの藤吉(藤山扇治郎)声が一際よく出ている。船をこぐ寛太郎も上手。

 歌舞伎から来たと思われる殺陣、捕り手と絡む渋谷天外がまるで『雄呂血』みたいなことをやっており、うーん教養があったらもっと面白いんだなと反省したりした。

 男に浮気はつきものという男の人に都合のいい神話のような物語だけど、皆持ち場をきっちり果たし、男の浮気云々(致命的かも…)以外は異物感ない。

 

 『大阪の 家族はつらいよ』

 松竹新喜劇、「やればできる子やん!」「輝いてるやん!」という一本だった。もともと皆芝居がうまいので、水を得た魚のように生き生きしている。

 なにも思わず、反省せず生きる父周造(渋谷天外)に、妻富子(井上惠美子)はやさしく仕えているように見えていた。しかし富子は、誕生日プレゼントに、離婚してほしいと切り出すのであった。三人の子供たち、その配偶者たちを巻き込んで、平田家は大騒動になってゆく。

 長女成子(泉しずか)のエルボードロップちょっと甘いと思ったが、メルカリで買った皿を割ったと夫(曾我廼家寛太郎)に告げた時の夫の声色(まさに黄色い声)がすばらしく、松竹新喜劇にはこのように眠った宝がたくさんあるのではとちょっと畏れを抱いた。

 周造が倒れた時のポジションは、一般的には面白いのかもしれないけどあまり笑えない。長い。もう一工夫欲しい。

 次男庄太(藤山扇治郎)、首をうつむき加減に力を入れた役作りがとてもいい。冒頭のケーキのやり取りの方がコーヒーのやり取りより練成されている。庄太の細かい指示にもかかわらず、コーヒーをさりげなく袋ごとフリーザーに入れた兄の妻史絵(川奈美弥生)、笑いました。

 芝居は二世帯住宅一階の幸之助(曾我廼家八十吉)史絵夫婦、二階の父母、周造富子夫婦がかわるがわるスポットを浴びている。考えた。この二組の夫婦は、実は一対の夫婦の過去と未来ではないかな。周造富子の中に息子夫婦が含まれ、親たちの過去と溶け合っている。チャップリンの『街の灯』はどちらの夫婦が観にいっててもいいもんね。どうして気持ちを言葉にして伝えないのかと庄太の婚約者憲子(桑野藍香)が問いただすと、家の外が明るくなって街の家々が照らし出される。幾千、幾万の家が俯瞰され、同じ問いを問われているようだった。