ええーそうだったのと、最後のインポーズを見てびっくりしている。ファントムの顔は半分見えなくて、見えるほうの半分にも細かい疵がぶつぶつとつけてあり、唇は斜めにめくれているのだ。張った声をよく聴けば分かったかもしれないけど、このファントムにこの人が選ばれたのは、繊細な歌いまわしが素晴らしいせいだよねと思って観た。ぼーっとしてたのか。「The Music Of The Night」という歌のおわりが、歌がぶれているのかと思ったら、伴奏に不穏な音が一音入れてある。障害物を乗り越えて歌い続けなければいけないんだね。でもここは、只者ではないファントムであることを歌手も予感させなくちゃいけないんじゃないの。
あと、物凄く驚いたのは、16,7回も続けてくるくる回るダンサー(劇中劇の奴隷頭、小さい笞を持っている)が、あのセルゲイ・ポルーニンだったことだ。ポルーニンてドキュメンタリー映画になっているし、図抜けた踊りでとても有名なのに、「異国風です」というのを見せるために惜しげもなく投入されている。ごはん屋さんの品書きが、とつぜん良寛さまだったような感じだよ。この時(2011)英国ロイヤルバレエ団のプリンシパルだったそうだ。
クリスティーヌ(シエラ・ボーゲス)がラウル(ハドリー・フレイザー)にもらった薔薇を喜ぶ表情が素敵で――薔薇の為だけに存在する瞬間がある――それは観客に二つのことを教える。クリスティーヌは美しいものが好き、そして愛する者だけのために、たった今存在して歌うことができると。
終幕クリスティーヌのまなざしはファントムにやさしく注がれていて、なんでファントムを選ばないのかと思うほどきれい。ファントムにはこの人こそ薔薇だったんだなと思わせられる瞬間である。4月20日月曜(19日の深夜)の午前三時まで無料で観られます。