アップリンク渋谷 『8日で死んだ怪獣の12日の物語』

 『スワロウテイル』(1996)以来、岩井俊二からは目をそらし続けてきた。あれ、かっこいい男の子と、すてきな女の子が、果てしなく誉めあうのを、じっと見ているような映画だったよね。凝ったセットとセンスいい映像を、やっと日本の人が作れるようになったのに、そこで喋る肝心の役者は、全滅だったよ。ほぼ半世紀ぶりの岩井俊二作品、どきどきだ。

 『8日で死んだ怪獣の12日の物語』は、コロナ禍の中で、コロナを避ける私たちの、コロナを巡るファンタジーだ。無人の街をさまようカメラは汚れた地上を忌むように、しかし離れがたいように、ちょうど二階の高さをすーっとすすむ。物語はズームによる対話(のん、樋口真嗣監督)と主人公サイトウタクミ(斉藤工)が通販で手に入れた怪獣を育てる一人語りの動画などが繋ぎ合わされ、斉藤工はほぼ素(演技しない)を求められている。傍から見ればたいへんな窮状に陥っているサイトウの先輩(オカモトソウ=武井壮)との会話もほぼ素、暗い話が軽く、平然と出る。身に沁みない、他人事のような言い方。あり得る話だ。しかし、素とはなんだろう。それが日常であれば、ズームであっても、私たちは演技する。この「日常の演技」に関する目盛が、ちょっと大まか過ぎる。サイトウは可愛く映るが、もっと明度を落としてほしかった。怪獣はちっとも大きくならないし、「処分」の後ろめたさも今一つだ。「ヒーロー」「コロナに勝つ」、粗雑な言葉が慎重に選ばれ、今という今、たった今を表わしている。岩井俊二はファンタジーをどう思っているのだろうか。ファンタジーを好きという感じが全然しないけど。

 怪獣が空高く行く映像がものすごく素晴らしく、軒端の陰から子供の私も「あれ」を見て、サンダルはくのもそこそこに追いかけて行ったことがあるような気さえした。ただし、登場は一回で十分さ。