東京芸術劇場 プレイハウス 『ボクの穴、彼の穴。』

 とってもいい話。原作のペン画は洒落ていて、舞台もスタイリッシュに仕上がっている。砂漠の穴の中に、一人置かれた兵士の孤独。心の変化。そして砂漠のどこかにもうひとつある敵の穴への恐怖、憎しみ。穴から覗く満天の星空もいい。照明も美しい。

 まずいのは、たった二人きりで演じ、80分をほぼモノローグで進める役者だ。

 大鶴佐助の演じる兵隊は、すこし甘えた調子でしゃべる、いまどきの若い人で、その造形はきちんとしている。しかし、この甘えんぼの男の子では80分がもたない。リアリティがないからだ。お腹がすくとか雨がいやだとか(塹壕足って知ってる?)、人の根幹にかかわる感情が、空に穿った小さな穴みたいに、瞬間ギラリとしてほしいのに、浅目にふわふわっと通り過ぎてしまう。その上、声がすこししゃがれている。まだ二日目じゃないか。若い俳優に「プレイハウス」「二人で」は負担だろう。しかし、声は嗄らさないように。声を嗄らす人は評価しない。ゼロだよ。

 宮沢氷魚の兵隊は、長い脚を折り曲げて腰かけている間はなかなかいい。だが、たちあがって動いた途端(うっ!)ておもう。体がキレない。つまり、身体の扱いが鈍重で、きびきびしてない。からだの隅々まで神経がいき渡っていないのだ。台詞も一回息するごとにフレーズ一個しか言えてない。愛嬌もない。まだそこまで自分を曝け出すことができないんだね。おまけに歌ときたらふたりそろっていまひとつ。宮沢氷魚、まずブレスしても緊張を維持できるようになろう。まずそこから。いっぺんにたくさんのことはできなくていい。今、めっちゃハンサム(武器だ)なのにハンサムに見えない。客を信頼する。客はあなたを愛している。