KAAT神奈川芸術劇場プロデュース 『人類史』

 虚空のように真っ黒の舞台。上手の奥から、四つん這いの生き物が一つ現れる。このサピエンス(知恵ある者)以前の何かであるらしい者たちの這い進む姿が、とてもかっこよく、美しい。頭より高い場所はどこにもないように見え、低い姿勢で斜め前に出す足先の角度から、優美さが漂っている。おみごと。いままで芝居で所謂猿人がうほうほいってるシーンたくさん見たけど、こんなにシャープで綺麗なのは初めてだよ。振付、エラ・ホチルド。また、踊りを踊るシーンで、足踏みが4回、手をたたくのが1回と、それがミニマル音楽のように途切れず続くシーンにはっとする。音楽、志磨遼平。振付と音楽でものすごくハードルが上がりました。

 200万年前、這い歩いていた猿人はふと星を見、手を伸ばす。二足歩行が可能になって道具を使い、声帯が自由になって言葉が生まれる。ひとは世界を知りたいと思う。人類史の中から農作が始まったエジプトと、ガリレオとペストの時代が選ばれる。

 残念だけど、ガリレオの話は一段がったり落ちる。まず、子ども(サルヴァトーレ=名児耶ゆり)のトーンと神童アンドレア(昆夏美)のトーンが近く、キャラがかぶってる。追い出される娼婦(マリスカ=大久保眞希)や自分の善良さに集中するヴェロニカ(奥山佳恵)、自分を鞭打つ修道僧(ニッコリーノ=福原冠)が盛りだくさんで中途半端だ。もっとみんな鋭い、悲惨な感じじゃないの?

 星と星、物と物に引力が働くならば、人と人にもあるだろう。東出昌大昆夏美の間にそれが働くとき、暗がりに群がり咲く小さい花のような密やかな感じが欲しい。たいせつでしょ。

 東出昌大、一幕で胸郭が筒のようになって、身体に共鳴する深い声出ていた。そこ大事にねー。ひらひら翻る声を利用するのはもっと後で。奥山佳恵、侍女の時芝居多すぎるよ。気を付けて。