渋谷パルコ8F WHITE CINE QUINTO  『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』

 おうちに帰り着くまでが遠足です、とどこの町でも先生が口にしていたせいで、今誰かがそういうと笑いが起きる。お菓子を先に食べちゃう子、寄り道する子、鼻血出す子、いろいろだったよね。笑ったりはできないけど、ザ・バンドの軌跡は「帰れない」遠足みたいだ。

 ロビー・ロバートソンは1943年トロント生まれのミュージシャンだ。ユダヤ人の父は彼が生まれる前に死に、母はモホーク族のインディアンだった。インディアン居住区の親戚たちのセッションを聴いて育ち、ギターに夢中で、高校をやめてプロになり、ロカビリーのグループで腕を磨く。同世代のリヴォン・ヘルムらとバンドを組む。そのバンドがボブ・ディランのバックをつとめたことで知られるようになった。バンド、「ザ・バンド」だ。ドラムスのリヴォンがディランのバックで受けるあまりのブーイングにへこんで一時バンドをやめてしまう。音楽をやる人、サウンドを聴き取る人というのは繊細だよね。そして音楽をつくりだす人には無軌道なところがある。度々の交通事故や、ヘヴィすぎる薬物の摂取が、ザ・バンドを思わぬ事態へと運ぶ。

 ミュージックビジネスって、向こう岸が見えない川に似てる。ザ・バンドの人々も、それぞれリュックや服を頭に括り付け、力の限り泳ぐ。音楽を聴き取るあの繊細さ、優しさをかなぐり捨て、出来る限りタフにならなければ。そのバランスを取るのは、すっごく難しかっただろう。何人かが突然の死や、怒りに満ちた死を迎えるのを知ると、(あー、向こう岸にたどり着けなかったんだ。もう帰れない)と悲しさがこみ上げる。力が脱け、速い流れに体を持っていかれる。だるくなる腕、呑みこむ水を感じる。帰れない遠足というとザ・バンドの人は怒るだろうか、でも生き延びたロビーを見ていると「遠足感」が拭えない、それは映画の撮り方によると思うよ。