新橋演舞場十一月公演 『女の一生』 

 森本薫、1946年10月34歳没。前年1945年10月のエピローグで幕を閉じる『女の一生』は森本の代表作。そうでしょう。主人公布引けい(大竹しのぶ)のみならず、脇役のそれぞれに複雑な味わいがあり、スルメのようにいつまでも頭の中で歯噛んでいられる。

 日清戦争遺児の布引けいは、おばさんの家を飛び出し、さまよって迷い込んだ堤家のしずに拾われる。堤洋行という中国との貿易会社を営む堤の家には、伸太郎(段田安則)、栄二(高橋克実)というしずの二人の息子がいる。商売に向かない学者肌の伸太郎を案じたしずは、有能で商売にも関心を持つけいを長男の嫁にと望む。けいは次男栄二に気持ちがあったけれど、思いを断って恩人しずに報いるのだった。

 「だれが選んでくれたのでもない、自分で選んで歩き出した道ですもの」という人に知られた台詞は、こんなとこに出てくるのかいと驚いた。伸太郎は「シナの事は金」と言い切るけいにたいし、日頃の屈折した思いをぶつける。女にしかないものがお前にはないし、お前にはついてゆけない。その指摘はけいの痛いところ、柔らかい所を衝く。伸太郎は大変落ち着いていてけいに物をいうのだが、そうかなあ。昔の男の人が妻の過去についていうって相当だよね。けいのあの台詞って、物凄く動揺しているけどそれを抑えつけていうんじゃないの。動揺させるように言わなくちゃね。それとあの台詞って、スポットが当たって斜め上をむいていうような台詞なの?今日の大竹しのぶは、一回視線を落としてから顔を上げるので、見得を切ったように見えたよ。変な気がした。結婚しない総子(服部容子)の造型もよくわからん。あれ細雪の雪姉ちゃんみたいな人じゃないの?彼女のドラマがよく見えなかった。