ヒューマントラストシネマ渋谷 『ストックホルム・ケース』

 「どうしてそうなったかわからないが、そうなっている。」っていう、説明の難しい、勢いのついた事態が、世の中にはままあるものだが、この映画もそんな感じだ。頭の中で最初から、何度も映画を転がしてみるけど、「そうなったわけ」がわからない。ストックホルムの素敵な内海の上の、暢気で隙だらけの男(イーサン・ホーク)が陸に上がり、気負うことなく銀行へ入って行った途端、そして銃を天井に向けて発射した途端、「どうしてそうなったのか」わからないまま、「そうなっている」ことを忙しく追いかける。

 この映画のいいところは、イーサン・ホークのスウィートさに焦点を当てるのではなく、持って生まれたスウィートが洩れ出るに任せているところだ。「ここはひとつ、スウィートに」って言ったら、王道ハリウッド映画みたいになっちゃうし、つまんない。「どうしてもスウィートになっちゃうイーサン・ホーク」は、宿命。『ブルーに生まれついて』も、『魂のゆくえ』も、スウィートだから可哀そうだったもん。隙だらけのスウィートな男が、銀行強盗をしようとするのには落差があるが、そこはなだらかにつなげられている。つまり、お笑いと狂気が共存しているのだ。笑えるシーンがたくさんある。なんといっても、この主人公はウェスタン・ブーツをはいている。奇妙だし、狂気だ。どのシーンも、「あの靴はいてんのか…」とちょっと笑える。たぶん、狂気と日常があまりに自然に演じられすぎて、つなぎ目がわからないのだろう。それじゃあもっと、差があったほうが翻弄されてよかったかもしれない。銀行員のビアンカノオミ・ラパス)が、しっかりしてない強盗に肩入れしたみたいに見える。結局なぜ心理的に肩入れするかの外的要因は、署長(クリストファー・ハイアーダール)がひどい態度だからとしか見えないのだ。熱いお湯と冷たい水の混ざったような映画だった。