東京芸術劇場 シアターイースト 二兎社公演44 『ザ・空気 ver.3 そして彼は去った…』

 私と同世代の人、上の人、下の人、皆、学校で勇気を問われたことはないだろう。そんな世の中だった。勇気がなくても生きてきた。勇気がなくても生きていける。忖度忖度とみんなが言うけれど、問題の核心は忖度なんかじゃない。勇気である。勇気というと蛮勇のように思われてきたのだと思うし、出番もなかった。けど、それが必要な場面がたくさん生まれてきちゃってる昨今の、最も尖った現場が、永井愛の『ザ・空気 ver.3』で扱われている。テレビのニュース報道番組「報道9(ナイン)」に、政府べったりの政治評論家横松(佐藤B作)がゲストコメンテーターとしてやってくる。この日、チーフプロデューサーの星野(神野三鈴)は異動前の最後の一日を過ごしていた。「奴隷」のように10年働いてやっとチーフディレクターになった新島(和田正人)とその後輩のアシスタントディレクター袋川(金子大地)は伝令のように二人と番組の間を走り回り、サブキャスター立花(韓英恵)は報道に意思決定権のある女性がいないことを嘆く。横松が意外なことを言い出し、舞台はまさに登場人物――星野――の勇気を問うものになってゆく。

 皆思い思いのマスクをして、体温の話をする冒頭から調子よく笑わせる。5人しか登場人物がいないのに、ここはたくさんの人が働く場所、そして、傍目には何階の何の部屋だか見当がつかない迷宮のように見える。しかし、役柄一人一人がいろいろな矛盾を背負わされ、それを体現することにいっぱいいっぱいで、その人にしかない深み、謎のようなものが欠けている。佐藤B作、客に好かれようとしすぎている。横松は、光が中で複雑な屈折を起こしているプリズムのような存在だ。当たる光線も一種類ではない。或る時は「落とし穴」のように見えてほしい。和田、金子、韓、ソツがなさすぎ。脚本のせいだね。