紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA  劇団民藝創立七十周年記念 『どん底――1947・東京――』

 まじかー。帝政ロシアの「どん底」生活の話を、1947年の東京に移しただけで、そのままやる?そして一番盛り上がる娘の叫びが省略?できる若い人は仕立て屋(齊藤尊史)と靴屋(本廣真吾)で、あとのメインキャストは年配の人ばかり?ちょっと、気を失いそうになりました。丹野郁弓だから大丈夫、きっと、大災害の避難場所やコロナを重ねてくれるよ。という期待もむなしく、話はゴーリキーの「まんま」進む。

 泥棒で生活を立てる特攻帰りのシンちゃん、尾形新一の橋本潤は、「距離感」がまだつかめていない。遠くにいる人には遠くにいるように、近くにいる人には近くに向かって、声の大きさを調節し、息を吐いてその息に音をのせる癖があるからそれもやめないと。こんなのすぐ直るから心配いらない。でも、「民藝の速度」でやってたらうまくなるのが60過ぎちゃうよ。のん気にしてちゃダメ。シンちゃんに思われる山岡テル子の森田咲子がいう「なんだかこわいの」という台詞は、前の自分の台詞とつながりがなさ過ぎて、なぜこわいかわからない。そして死にかけてるおかみさんの野田香保里、『ならず者』(高倉健主演映画1964)の南田洋子の咳をみて。ほんとヤバい咳だから。牝豚というひどいあだ名の菊江(庄司まり)好演。

 民藝の人たちって、劇団どうしたいのか全然わからない。このまま年配の上手い人たちが主役で静かに劇団の幕を引くのか、齊藤や本廣などの若い人に主役を渡して繋いでいくのか。基本の修練をやっている橋本をフィーチャーするのは、まるで「まだ若い人がも一つなんですよ」というエクスキューズのように見える。赤と緑の服でぴょんぴょん弾けてる日色ともゑにはすごい受けたけど、どういう民藝でありたいのか考える時だ。