あうるすぽっと serial number06 『hedge1-2-3 sideA hedge/insider』

 や、台詞の言い方修正したんだね。わざとらしいところがなくなってる。と思ったのもつかの間、次の瞬間物凄い悲哀が訪れる。資本を「投入」が、「豆乳」に聞こえる自分の人生に、ショックを受けるのだ。愛とお金と健康、大事な三つの物のうち、私、「お金」の事、全然知らないじゃん。

 脚本は、いったん観客をそこまで叩き落としてから、手厚くもてなしてくれる。だから「TOB」だの「敵対的買収」だの「インサイダー」だのが出て来ても心配いらない。いつのまにか、有望なのに業績の悪い会社を立て直し、その株の売却益で会社を動かす「バイアウトファンド」の会社「マチュリティーパートナーズ」の人々に感情移入している。

 問題はいくつかある。「金融に身を投じる」とは「利益を追いかける」の意だろうと思うのに、マチュリティーパートナーズは誠心誠意、株式会社カイトに尽くしていて、上澄みの透きとおったところ(まごころ)しか見えず、「利を追う」辛い、いやなところが全然感じられない。話が薄くなる。皆緊(しま)った芝居をしているが、もう少しキャラ立ちさせてもいいんじゃないの。ファンドの社長茂木(吉田栄作)ソツがなさすぎる。コーヒーカップ、「もたされている」。浅野雅博、おとなしすぎる。わがままになれ。中では銀行出身の国分(酒巻誉洋)が、硬い、日本ぽさを出していた。

 気楽な普段着から、スーツを着る所作を見せて、誠に男のスーツとは、日ごとの武装であることよと思うのだが、これだけ歌舞伎のように見得をきるのならば(あの仕種はみな、現代の見得だろうと思う)、どこかで(たぶんそれは終わりの方で)、武装を解く動作、対照的な何かがちらっとあったほうがよかった。