Bunkamuraシアターコクーン COCOON PRODUCTION 2021『物語りなき、この世界。』

 あのー。「人は無意味に耐えることはできない」っていう、古い推理小説を読んでから、あっそうなのねと物語を疑うことをしてきませんでした。それと世の中の物語を求める人、物語に乾いている人って、不幸せな人が多いと思う。いいとか悪いとかではなく、今自分が感じている不幸せの、「外の」「他の」枠組みを切実に探しているのだ。

 歌舞伎町の地べたを歩き回る若い人たちの、そのすこし上の中空を、物語に関する言説が漂っている。ここがなあ。台詞の言い方をめちゃくちゃ難しくしているのだった。まず、上手と下手、反対方向から歩いてくる菅原裕一(岡田将生)と今井伸二(峯田和伸)の足取りが、繊細でない。売れない役者と売れないミュージシャンが巷を歩くとき、その時、地面は敵?味方?そこからして準備が十分とは言えない。作家が「決めない」せいで、地の台詞(さりげない、日常の)が緊密でなく、漂う「物語の台詞」が浮いてこない。岡田、峯田、やり取りもっときっちりやろう。トラブルのもとの中年男(星田英利)の最初の足取りが二枚目で、(おや)と思わせる。「もう一回やり直してくれねえかな」血を吐くようで素晴らしい。だが「かきくけこ」が関西発音でひっこんでいる。俳優ならば別の「かきくけこ」もできないとね。寺島しのぶ、「3Pしよ!」はもっと陽気な悪魔でやってほしい。星田英利の心の中を「物語る」シーンは、この芝居の白眉であるはずなのに、迷いがある。皆物語への批評性を持たされているからだ。あまり成功でないと思う。もうここ、嗚咽しながらやってほしい。語り終えたらフラフラになるくらいに。宮崎吐夢結婚の経緯、珍しく台詞言えてない。やっぱ批評性がねー。

 「出来事」と「理屈」でいっぱいの菅原と今井、「物語」がないとは若いということだ。若いねって思う幕切れを目指せ。