赤坂レッドシアター プリエールプロデュース 『マミィ!』

 うわずっていた。

 母小須田咲(熊谷真美)と、実家を訪ねてきた娘来奈(らいな、宮崎香蓮)のやりとりが、もんのすごい音域あがっているうえに互いに近寄っていて、どちらも役柄を打ち消しあっている。特に熊谷真美は主役であり、15年も蒸発していた夫和久(佐藤B作)と対面するという微妙で繊細な芝居を要求されているのに、「声が出ない」せいでキャラクターが不安定になり、表現しきれていない。おちつけ。高い声など出す必要はない。持ってる音域で、勝負するのだ。芝居の芯になれー。

 しっかりした姑不二江(松金よね子)が、無理のないしっかりした声で「他に家族がいるんだね」と息子和久を決めつけるところで、はっと咲は息をする。ここすごくいい。この芝居の中で一番いい。断ちきれない愛と、不意打ちで核心をつかれたことが、なんというか、曖昧模糊とした説明できないこころとしてその場に漂っていた。

 来奈の兄礼央三津谷亮)はウーバーイーツで働いている。母に15万借りて買った自転車は3万円、差額の12万は『夢』に宛てている。今日びの若い兄ちゃんの地に足のつかない、場当たり的な脚本の受け答えは面白く観たが、三津谷もうわずり、トイレの話題の笑い声ががっかりの出来だった。佐藤B作の父は、逃げ隠れする前半と土下座する中盤、よくできた妻に食って掛かる後半の、整合性が取れていない。これは脚本にも問題ある。結局この人、どういうひと?ケーキ屋のお姉さんエミリ(伊藤桃花)、過不足ない異物感だが予想できちゃうし、この芝居全体の出来が、なんか田村のオリジナル脚本のコピーのコピーって感じでぼやけていて、役柄が家の内外入れ替わるとことか、不鮮明なんだよね。皆もっとかちっと役柄を掴んで、緊密なやり取りをしよう。