配信 大パルコ人④マジロックオペラ 『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』

 真面目にいっちゃうと、あの「宮下公園リニューアル」は、看過してはいけない問題だった。企業に委託し、再開発して「入れない人」をつくる。公共の空間なのにだよ。メンタリストの素(もと)だよね。宮藤官九郎はむきつけにそんなことは言わない。しかしオープニングのナンバーの歌詞は「なんかやだなあ」であり、ニジロウ(村上虹郎)の住む公衆トイレの背後には、宮下パークが黒々と浮き上がる。ニジロウは「あっち」から来た娘ノン(のん)と知り合う。ノンには変顔をするとおっさんの声でテレパシーを送れる超能力があり、ニジロウにも30秒後の世界を予知する力がある(ただし屁が出る)。いつかお互いを好きになった二人は、他の超能力者たちとも協力し、はっきりそれとは見分けがたい(と私は思った)敵と戦い、それと見分けがたいエンディングを迎える。

 これ、ロックオペラだよね。怒髪天上原子友康の曲はなかなか良いと思うのだが、配信のせいか迫力はない。なによりのんがうたえてない。息が全部声になってないの。腹筋・体幹を鍛える必要がある。大体、ボイストレーニングしてるのか。この芝居のためのインタビューを見たが、甘い子供のような発声、滑舌で、これからどうすんだ。28歳。自分のデザインをどうするかよく考えてほしい。

ただし、じゃーんと登場する冒頭には華がある。村上虹郎、スモーキーな素敵な声なのだが、いかにも「歌いこんでいない」。もっと聴かせていいよ。ノンを好きになって屁を我慢するシーンに抒情が足らん。「すき」のリアリティがない。抒情があるからそれを無効にする屁が可笑しいんじゃん。

 全否定(宮藤官九郎が全否定老人を演じる)から、全肯定へと至る一見わかりやすいメッセージの芝居だとは思うが、これ、誰に向けた芝居なの?そこがよくわからなかった。