練馬文化センター 小ホール 『イッセー尾形の妄ソー劇場 その4』

 下手のすっごく前。衣装ラックがよくみえる。黒にピンストライプの背広があり、その後ろにズボンが、外輪(そとわ)に足をつっぱらせてかかっている。背広には白シャツが寄り添い、赤いネクタイが輪っかにひっかけてある。グリーンのジャージの広がった足も見える。黒い革靴の中に赤い靴ベラが入ったままスタンバイしている。

 今日はどんな衣装のどんな人が出てくるのかなあと、足音のような拍とギターが絡む音楽の流れる暗闇に、息をひそめてわくわくする。と、どうですか。今日のはすべての予想をはるかに超えてきたね。お財布を忘れてきたため、津田沼のお母さんに届けてもらおうと、小田急ハルクの二階で待つ娘。お母さんは二十年ぶりに新宿へ来た。なぜか小田急デパートの六階にいる。娘の、「もしもしお母さん?」というケータイ(そこは予想通りラメできらきらしている)に話しかける声は、全く作らないイッセー尾形の地声である。娘は小田急ハルクが小田急の別館であることや、エスカレーターとエレベーターの違いについて説明し続けるのであるが、二人はなかなか会えない。おもしろい。今日の演目すべて面白いんだけど、演目すべてがつまらなくもある。イッセー尾形、前のめりに筋を運びすぎ。先へ先へと急ぐので、キャラクターが「その場にいる」猶予を与えられていないのだ。だからものすごく意表をつく「高速道路男」などは勢いで見られるが、逆に「中華屋のおばちゃん」はすかすかだ。「そこに居ない」から。「国会中継」が実在の人物に寄せすぎていてつまらない。国会議員の彼も、「そこにいない」。全体に「コロナ」が効いていていい。しかし、「立体紙芝居(雪子の冒険Ⅳ)」が相変わらず謎すぎる。多数の人をいっぺんに出す、ってことなのかな?