紀伊國屋ホール 扉座創立40周年記念公演『ホテルカリフォルニア ―私戯曲 県立厚木高校物語―』

 犬飼淳治、儲かっている!儲けている!中学までは「勉強ができる」ことが自分のキャラで、進学校に進んだ途端、「特徴のないふつうの高校生」になってしまった子の、無口でぎこちない苦痛の表現、佇まいが素晴らしい。すこし周りの空気が蒼ざめて温度が低いみたいなのだ。それは彼が「居ない」からかもしれないし、「薄い」からかもしれない。しかし、あの頃流行った「ジンギスカン」を不器用に――周囲の人を視野に入れず――誠実に踊ろうとする姿が、湧水みたいに澄んでいる。

 作者横内謙介の高校時代の思い出を、独りよがりにならぬよう、登場人物たちの持ち寄った記憶の絵を重ねることで成立させている作品である。受験がどれほどつらいかすぐさま思い出せる。締め木にかけて油を搾り取るように身を責められながら、東大、京大、東京医科歯科大、と、全てがすっぱり切り分けたヨーカンのように分別され、整理される。皆振り落されないために必死な中で、文化祭を成功させようとする懐かしくて苦しくて楽しい話だ。

 主人公の横山君の有馬自由、きちっとやっているが、「声が足りない」。それは岡森諦も同じで、今後十年を見据えるならば、ケアが必要。岡森、正直すぎて鼻血出る十秒前にわかっちゃうよ。張ヶ谷君(高木トモユキ)秀才に見えた。木村部長刑事(新原武)、もっと場を呑んでかかれ。山中崇史と役柄のテイストかぶっているけど、二人で競り合った方がいい。鈴木利典好演、どんどんかつらを利用して役柄を広げてほしい。『山椒魚だぞ!』は初演(1979、大分)の方がずっと上。横山は終わりに「歌ってくれよ」と頼む。このあとここが、繊細で素敵なぼんやりした幕切れである。

 40周年で「序列順に」劇団員がカーテンコールに出る。ちょっと、ヨーカンみたいじゃないか。