三鷹市芸術文化センター 星のホール『星の王子さまとの出逢い ~音楽と絵と言葉のコンサート~』

 「ごうかーく!」ステージを見るなり胸の中でにっこりする。紗幕にさらりといい感じのペン描きで、いびつな星たち、輪っかのついた星ひとつ、地球っぽい大きめの星などがシンプルに現れ、ピアノの高い音がきらんひかひかと小さく鳴る。紗幕の向こうに布で作って吊り下げた山脈が見え、下手(しもて)にグランドピアノ、その前に一輪の赤い花が花瓶に入れられ、暗幕のかかった台座にある。橙色の天の川も見える。どれもが(たぶん限りあるバジェットの中で)最大に考えつめられ、最高級にシックだ。

 「星の音」がはっきりしてきて、近づいてくる星が心に浮かぶ。立ちのぼるサックス。誰かの声のよう、サックスの中に『星の王子さま』がある。今日の演奏家(サックス、メタルクラリネット、ピアノ)は仲野麻紀で、朗読は本来は銅版画家の中井絵津子だ。仲野の演奏は繊細で、何ていうか、「自分」と「世界」の間の膜が柔らかく、薄い。例えば「星」、例えば「宇宙」、例えば「砂漠」を表現しようとするとき、「これは星ですよ」という目配せ、ワンクッションがない。つねに「星」と「私」であり、対象に迫り、ダイレクトに捉える。今日ほど『星の王子さま』の宇宙が広く(サックスに交じる息遣い)、砂漠が静かに感じられたことはない。「星の王子さまは、ほんとは、飛行士の胸の中にだけ居るんだ」と思った。王子さまの不在。それをつなぎとめるのは中井の朗読であり、いまどきこんな清潔な声の人どこで探してきたんだろうか。舞台に敷き詰められた紙だけど、カサカサいう音がまだ表現に昇華されてないね。楽器を吹きながら上手(かみて)に後ろ向きで歩くとき、仲野は不安そうだった。音が途切れたよね。だめじゃん。

 宇宙の虚無を埋める星の笑い声、サン=テグジュペリ(飛行士―王子―花)がどんだけさびしかったかと考えたりした。