シアター1010 KERA CROSS VER.4『スラップスティックス』

1939年、ビリー・ハーロック小西遼生)は映画配給会社のデニー元木聖也)を説得して、忘れられたコメディ俳優ロスコー・アーバックル(金田哲)主演の無声映画を上映してもらおうとする。デニーに19年前の映画界を語るうち、世界は重層化し、過去が映画のように立ち上がってくる。

 これ名作やん。「無声コメディ映画への愛」と「かなしみ」と「青さ」が詰まってる。ただ題材を籍(か)りたんじゃない、本当の愛だ。それが!…三浦直之(演出)、遠慮したな。劇団ロロのメンバーはぴりっとしてるけど、その他はどうよ。まず幕開けのビリーとデニーのやり取りが拙い。元木聖也、声が高いけど、それは自分の内心(本心)に接地しないで芝居しているからだ。知らない間に自分と向き合わないようになっているなら、一度「演劇と自分」について考え直した方がいい。但し身体はキレる。それはバク転するまでもない。小西遼生KERAの台詞を畳み掛けるとき、理解が浅い。低いトーンときちんとした間で笑いにつなげられているのはマック・セネット監督のマギーだけだ。若いビリーを演じる木村達成なんて、ちゃんと台詞のやり取りをする透明人間みたいである。そこに「いない」よ。息して。脚本読む。ビリーの恋人アリス・ターナー桜井玲香)のピアノ弾く手が最初から合わない場所を押さえているけど、あれ演出?最初合ってて、段々変わる方がいいよ。

 戯曲の力もあり、ヴァージニア・ラップ(黒沢ともよ)の陰翳が濃く、余韻が深く残る。「笑いと残酷」を通過した後のコメディ映画の映像は、痛みが強く来て正視できないほどだ。金田哲壮一帆、持ち場を懸命に演じるが、金田は(控えめで良い)と見え、壮は(もっと出ろ)と感じられる。とにかくね、皆脚本の読みが足らないよ。うすい。「ラーメン屋」の件も異空間のぶつかり合いがなかったね。